認知症の透析患者さんが透析中に落ち着きがなかったり、
起き上がったりした経験はありませんか?
高齢化していく透析患者さんの問題として認知症があります。認知症の透析患者は、身体的・精神的・社会的な面から多くの支援が必要です。しかし、その一方で、看護師にとっても課題や困難が多いことも事実です。例えば、透析治療の意味や必要性が理解できない患者に対して、どのように説明したり安心させたりすればよいのでしょうか。また、水分制限や食事療法などのセルフケアができない患者に対して、どのように教育したりサポートしたりすればよいのでしょうか。この記事では、そんな認知症の透析患者について看護のポイントをお伝えします。
認知症とは
認知症とは、脳の細胞が死んだり働きが悪くなったりすることで、記憶や判断力などの認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態のことです。
透析患者さんと認知症
透析患者さんの認知症の有病率は、一般住民に比べて約2倍高いと言われています。日本透析医学会の調査によると、2018年末の時点で、透析患者全体の10.8%が認知症があり、そのうち半数以上がサポートを必要とする状態でした。また、透析患者全体で年間3.32%が新たに認知症になると推計されています。
透析患者さんが認知症を発症する原因
認知症の主な原因は、脳の病気が原因で起こることが多いです。アルツハイマー病は、原因の約7割を占めるとされており、脳にアミロイドβたんぱくという物質がたまり、神経細胞が傷害されて脳が萎縮していく病気です。また、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によっても認知症を発症することがあります。
透析患者さんの場合には、透析治療自体がストレスや負担になることが挙げられます。
認知症透析患者さんの問題行動
問題行動とは…
社会の常識やマナーなどに反するような好ましくない行動と言えますが、実際には
本人にとっては問題行動ではなく、介護する側から見た表現である場合が多いです。
具体的には…
- 体重増加が多くなってしまう。生活上の制限が守れず我慢ができないことが多い。理解力が乏しいことで水分を制限しなければならいことを理解できない。
- 血圧の低下や倦怠感やふらつきがみられても、認知症高齢者は自らの体調を踏まえた行動をとることが難しいことがある。
- 透析拒否や透析に行くことを忘れてしまう(透析拒否ととらえられてしまう)
- 治療中の大声・興奮・起き上がり・抜針してしまう。なぜ針を刺されるのか、縛られているのかわからないため、騒ぎ助けを求める。
透析患者の認知症の問題行動の原因は、透析による血圧低下や倦怠感 などの身体的な苦痛や不快感、透析時間中の安静や制限 などの精神的なストレス、透析治療に対する理解や受容度 の低さなどが考えられます。
認知症透析患者のケア目標
認知症透析患者さんのケア目標としては
「適正な透析治療」と「生活支援」
に尽きると思います。
認知症の症状等を考慮し、患者の個別性(最も望んでいる生活)に焦点を当て「その患者ごとの適正な透析治療」と「生活支援(ケア方針)」を家族を含めたケアチームで考える必要があると思います。
透析患者の認知症の問題行動の原因は、透析による血圧低下や倦怠感 などの身体的な苦痛や不快感、透析時間中の安静や制限 などの精神的なストレス、透析治療に対する理解や受容度の低さなどが考えられます。
認知症透析患者さんは自己管理が難しく、また治療中体動が激しく治療を中断することも考えられ、十分な治療ができない場合があります。
認知症の患者さんへのアプローチの特徴
- 本人を大切にする:認知症高齢者は人間として尊重されるべきであり、自分の気持ちや考えを大切にし、嫌な思いをさせないようにすること。
- 心をケアする:認知症高齢者は心の状態によって調子が変わるため、心配やさびしさなどの気持ちに気づき、安心させたり励ましたりすること。
- 変えないであげる:認知症高齢者は家族や家などの身近なものに強くつながっているため、急に変えると不安になることがある。本人が落ち着くものを守ってあげること。
- 適切なケアをする:認知症高齢者は進んでいく病気であり、症状によって対応が違うため、医者や専門家の助けを借りながら、正しいケアをすること。
- 権利を守る:認知症高齢者は判断ができなくなることがあるため、お金やサービスなどの権利を守られないことがある。本人の代わりに法律で保護したり、本人の意思を伝えたりすること。
認知症患者さんへの有効なケアは、患者によって異なります。患者さんをよく看て、心の中を想像して、ケアの手がかりをチームでさがすことが大切になります。
患者さんごとに「快」の刺激は違います。ご家族などから情報収集をし、患者さんごとの接し方を探す必要がある
透析室での共通のアプローチ
- 専門医による診察、薬物治療の検討
- 変化への対応が難しいため、スタッフやベッド配置など周辺環境を固定し、なじみの関係をつくる。
- 不安・興奮時はなじみのスタッフや家族が付き添い、安定につながる話や物を用意する。
- 身体拘束は短時間で最小の工夫をする。手を握るなどの方法を有効
- 苦痛は混乱・興奮するため、苦痛のない透析治療を提案する。
- 患者に不快な反応(不利益)があったときは方針を変更する。
- 必要な処置(穿刺など)はタイミングをみて短時間で実施する。
患者さんが安心して治療ができる環境を整えてあげることが大切です。
情報収集とフィジカルアセスメント(身体的評価)
記憶障害や認知機能障害により自覚症状を言語で適切に表現できないため、訴えに惑わされずに客観的視点で情報収集しフィジカルアセスメントする
アセスメントのポイント
- 身体症状の見落としはないか(歩行状態・顔色・表情など確認する)。
- セルフケアが出来ないことが多く感染リスクが高いが症状が出にくいため、感染兆候を見逃さない。
- 高齢透析患者さん特有の合併症に注意する。
- ご家族など介護者からの情報収集する(元々どんな方で、現在はどのような状況か)。
- 多職種でそれぞれの視点で患者さんを観察する。
問題行動改善のための情報収集
その問題行動が起きることに影響していそうな情報収集を行う
- 痛みや空腹など不快な症状はないか。
- 患者さんの表情や発言などの小さなサインを見逃さない。
- 多職種を含め、多くの眼で継続的に観察する。
- ご家族からは、これまでの生活歴を含めて関連する情報を詳細に確認する。
- 行動の特性(パターン)はないか。
- その行動のきっかけとなる状況やきっかけを把握する。
問題行動だけでなく、良い反応が得られる状況やきっかけも把握しておくことも大切です。
コミュニケーションの特徴
- 混乱していることの理解する。
- 不安、防御反応
- 表情や態度をよく観察
- 患者の心の中を想像してみる
認知症透析患者さんだけでなく、患者さんに対して「傾聴」の姿勢がとても大切です。
認知症透析患者の看護のまとめ
- 認知症を理解する:認知症の程度や特徴を評価すること。
- 透析方法を決める:血液透析と腹膜透析の違いを説明し、患者や家族の希望や状況に合わせて選択すること。
- セルフケアを助ける:水分や食事、薬などの管理について教えたり、家族や介護者の協力を得たりすること。
- 心をケアする:透析治療に対する不安や恐怖などの気持ちに気づき、安心させたり励ましたりすること。
- 変えないであげる:身近な人や場所につながっていることを守り、安定した関係性を保つこと。
以上のように,認知症の透析患者について看護のポイントは,認知症を理解し,透析方法を決め,セルフケアを助け,心をケアし,変えないであげる,ということです。
正しい行動への誘導であっても、患者さん自身が情緒的に不安定では余計に混乱してしまいます。行動の失敗や間違いを起こさないですむように、先回りして誘導する事や環境を整える事が大切だと思います。
今回の記事は以上となります。
認知症の透析患者について看護のポイントをお伝えしました。認知症の透析患者は、透析治療に対する理解や受容が難しいことがあります。看護師として、患者や家族の気持ちに寄り添い、安心感や自信感を与えることが大切です。この記事が、認知症の透析患者に関わる方々のお役に立てれば幸いです。ご覧いただきありがとうございました。
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