血液透析濾過(HDF)は、血液透析(HD)よりも高い尿毒素除去効果を期待できる治療法です。しかし、HDFを行うには、高い濾過性能を持つ透析膜が必要です。その中でも、ポリエーテルスルホン膜は、親水性や拡散性能などの優れた特徴を持ち、HDFに最適な透析膜と言われています。この記事では、ポリエーテルスルホン膜の特徴や使い方について詳しく解説します。
ポリエーテルスルホン(PES)膜の特徴
ポリエーテルスルホン(以下PES)膜は、透析治療に使用される人工腎臓の透析膜の一種です。この膜は、高い透過性、高い膜分離特性、高い生体適合性、高い耐久性、高い安定性を持っています。
透析治療で使用されるPSE膜は、合成高分子系の透析膜の一種で、以下のような特徴やメリットがあります
- 親水性が高く、水が通りやすい。
- 非対称構造で、緻密層と支持層からなる。
- 環境ホルモン様物質がポリスルホン膜に比べて少ない。
- 小分子から中分子まで幅広い物質の除去能に優れる。
- アルブミン漏出に注意しなければならない。
親水性が高く、水が通りやすい
透過性・透水性に優れ、水分や老廃物を効率的に除去できる。
非対称構造で、緻密層と支持層からなる
非対称構造で、膜の表面と内部で孔径(穴の大きさ)が異なる構造のことで、表面は緻密層(小さい孔)で物質の除去能に関係し、内部は支持層(大きい孔)からなります。緻密層は拡散性能を高め、支持層は中空糸の強度を保ちます。強度が高いので、膜を薄くできます。これにより、拡散性能と透水性がさらに向上します。
環境ホルモン様物質がポリスルホン(PS)膜に対して少ない。
PVP(親水化剤)を含みますが、ビスフェノールA(BPA)を含みません。BPAはアレルギー反応の原因となることがあります。
ビスフェノールAは、プラスチックの原料として使われる化学物質です。食品用の容器や缶詰の内側にも使われているため、食事を通して体に入る可能性があります。ビスフェノールAはエストロゲンと似た作用をすることで、内分泌系に影響を与えると言われています。
小分子から中分子まで幅広い物質の除去能に優れる
シャープな膜分離特性を持ち、加工が容易なため治療目的に合った除去特性を持った透析膜を作成できる。
アルブミン漏出に注意しなければならない
PS膜よりも少ないとされる。
PES膜の国内シェア
PES膜は国内では約30~40%のシェアを持ち、PS膜に次ぐ人気のある透析膜です。PES膜はニプロ社からPES-esoシリーズやMFXシリーズという製品名で販売されています。
このような特徴を持ったPES膜の実際の使用例や他の膜との使い分けについてはこちら
PES膜とは何か、どのように作られているか
ポリエーテルスルホン(PES)は、スーパーエンジニアリングプラスチックに属する機械的強度、耐熱性が高い高分子材料です。透析治療で使用されるPES膜は合成高分子系の透析膜の一種で、このPESを原料としています。
PESは、芳香族ジアミンと芳香族ジアシドクロライドを重合させて作られる線状高分子で、耐熱性や耐薬品性に優れています。PESを溶剤に溶かして液状にし、その液体を細い穴から押し出して空気中で固化させることで、非対称構造の中空糸型の膜が作られます。
重縮合法とは、芳香族ジアミンと芳香族ジアシドクロライドを反応させてポリマーを作る方法ですが、ポリエーテルスルホン膜の場合は、芳香族ジヒドロキシ化合物(ビスフェノール類)と芳香族ジハロゲン化合物(4,4’-ジクロロジフェニルスルホンなど)を使います。
HDFとは何か、どのように行われるか
血液透析濾過(HDF)は、血液透析(HD)と血液濾過(HF)の長所を生かした治療法です。
HDFでは、HDとHFの両方の原理が使われます。すなわち、拡散で小分子量物質を除去しつつ、濾過で中・大分子量物質も除去します。
PES膜がHDFに最適な理由やメカニズム
血液透析濾過では、中・大分子量の老廃物や蛋白などを除去するために、高い濾過性能を持つ透析膜が必要です。
一般的に、透析膜は孔径(穴の大きさ)と孔密度(穴の数)によって分類されます。孔径が大きくて孔密度が高いほど、濾過性能が高くなります。また、透析膜は材質によっても分類されます。材質は天然由来のセルロース系と合成素材の合成高分子膜に分けられます。合成高分子膜の方がセルロース系よりも生体適合性が高く、アレルギー反応や補体活性化を抑えることができます。さらに、合成高分子膜の透析膜は疎水性と水溶性に分けられます。疎水性の方が水溶性よりも耐久性や安定性が高く、β2-ミクログロブリンなどの大分子量物質の除去効率も高いとされています。したがって,血液透析濾過に最適な透析膜は,孔径が大きくて孔密度が高く,合成高分子で疎水性のものです.
このようにHDFに適した透析膜の条件を考えるとPES膜はHDFに適していると言えるのではないでしょうか
PES膜とPS膜の違い
ポリスルホン (PS)膜は世界および日本でもっとも使用されている透析膜で、孔の大きさがコントロールしやすく、非均一構造からの薄い緻密層による篩(ふるい)などが可能なことより、高い溶質除去能と透水性をもつダイアライザが作製可能となるようです。ポリエーテルスルホン(PES)とポリスルホン(PS)はどちらも、高温での靭性と安定性で知られている熱可塑性ポリマーです。それらはサブユニットアリール-SO 2-アリールを含み、その決定的な特徴はスルホン基である。PESとPSの違いは、PESの骨格にエーテル基(-O-)があるのに対し、PSは骨格にメチル基(-CH3)を持っていることです。
PES膜の使用例や実際の効果
PES膜の実際の使用例や他の透析膜との使い分けに関してはこちら
市販されているPES膜の種類
ニプロ
- PESシリーズ(ダイアライザー)
- MFXシリーズ(ヘモダイアフィルター)
バクスター
- ポリフラックス(ヘモダイアフィルター)
まとめ
ポリエーテルスルホン膜の特徴
- 高い透過性
- 高い膜分離特性
- 高い生体適合性
- 高い耐久性
- 高い安定性
ポリエーテルスルホン膜は、HDFに適した透析膜の一つです。親水性や拡散性能が高く、中・大分子量の老廃物や蛋白などを効率的に除去できます。また、生体適合性も高く、アレルギー反応や補体活性化を抑えることができます。ポリエーテルスルホン膜を使用する際は、濾過量や置換液量などの治療条件を患者さんの状態に合わせて調整することが重要です。ポリエーテルスルホン膜を使って、より高品質なHDF治療を受けましょう。
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