マグネシウムが高かったり低かったりしたら、何が悪いの?
今までマグネシウムを気にしていない透析室スタッフや、透析患者は多いのではないでしょうか?
定期採血の項目に入っていても結果を見ていなかったり、そもそも定期採血項目に入っていない透析施設もあるのではないでしょうか。
透析治療は、腎臓の機能が低下した場合に、老廃物や余分な水分を体から取り除き、命を救う治療法です。体内の余分なマグネシウムは腎臓で排泄される為、腎機能が低下してくると血液中のマグネシウムは高くなります。透析患者さんでは、高頻度に高マグネシウム血症が見られます。そのため、昔から透析治療ではマグネシウムを除去して高くなりすぎないようにしておりました。
ただし、血液透析中は、マグネシウムを含む特定の電解質のレベルが大幅に変動する可能性があります。マグネシウムは、血圧の調節、筋肉や神経の機能、骨の形成など、体の機能に重要な役割を果たす必須ミネラルであり、透析患者さんにおいてマグネシウムは大切な役割をしております。
この記事では、ここ最近注目されているマグネシウムについての記事になります。
今回の記事は、このような方におすすめ!
- 透析患者の方やそのご家族・ご友人の方
- 透析患者の食事や栄養に関心のある方
- マグネシウムの摂取量や基準値に関心のある方
- 透析患者の方の予後や生活の質を改善するために、食事や栄養以外にもできることがあるかどうか知りたい方
マグネシウムの基礎
マグネシウム(Mg)は、人体で4番目に多い陽イオンです。その大部分は細胞内に存在し、残りの半分は骨に、3分の1は筋肉に、残りは軟部組織と細胞外液に見られます。
マグネシウムは、腸から吸収され、腎臓で排泄されます。しかし、食品の加工によって多くのマグネシウムが失われるため、現代人の60%がマグネシウムが不足していると言われています。
総Mgの約1%が細胞外に存在し、この細胞外のMgが心臓の伝達や収縮、エネルギー代謝などの多数の生理学的役割に関与しています。実際はこのうちの約60%にあたるイオン化されたマグネシウムが生体にとって活性作用のあるマグネシウムになります。
イオン化されたマグネシウムを測るのは難しく、一般的には血液中のマグネシウム濃度(tMg)を測定して管理しています。
透析患者さんのマグネシウム異常
透析患者は、腎臓の機能が低下しているため、マグネシウム(Mg)の排泄が不十分になります。そのため、高Mg血症になりやすく、神経筋障害や心電異常などの合併症を引き起こす可能性があります。しかし、透析液のMg濃度が低く設定されていることや、食事からのMg摂取量が不足していることもあり、逆に低Mg血症になる場合もあります。低Mg血症は、骨粗鬆症や血管石灰化などのリスクを高めると考えられています 。
健常者の血清マグネシウム濃度の正常値は1.8~2.5mg/dlとなります。一般的に5.0mg/dlまでは無症状のことが多いです。
したがって、透析患者にとって適正な血清Mg濃度を維持することは重要です。しかし、現在の透析治療では、血清Mg濃度の測定や管理は一般的ではありません 。最近の観察研究では、血液透析患者では血清Mg濃度が2.7~3.0 mg/dLにおいて最も予後が良いことが示されています。この範囲は健常者の基準値よりもやや高めですが、Mgが血管石灰化を抑制する効果を持つと考えられているためです 。
透析患者とマグネシウムの論文
血中マグネシウム濃度と生命予後
大阪大学の坂口先生の論文で、透析前の血清マグネシウム濃度と1年後の死亡リスクの関連について検討した報告があります。
- 対象:2009年末の統計調査の142555例の透析患者さん
- 要因:透析前マグネシウム濃度とアウトカム(1年後の全死亡、心血管死、非心血管死)
- 結果:透析前マグネシウム濃度と全死亡率、心血管死、非心血管死のリスクはU字カーブで、血清マグネシウム濃度2.7~3.0mg/dlがもっとも死亡率が低下していた。
マグネシウムと血管石灰化
透析患者は血管石灰化のリスクが高く、心血管死亡の主要な原因となっています。血管石灰化は高リン血症によって促進されることが知られていますが、マグネシウム(Mg)は高リンによる血管平滑筋細胞の骨芽細胞様への形質転換や石灰化能の発現を抑制することが実験的に示されています 。また、透析患者においては、血清Mg濃度がやや高めの方が生命予後が良好であることが観察研究で報告されています 。これらの報告から、Mgは透析患者における血管石灰化の予防に有用な役割を果たしている可能性があります。しかし、透析患者ではMgの摂取量や透析液中のMg濃度によって血清Mg濃度が変動しやすく、適正な血清Mg濃度の範囲は明確には決まっていません。今後、Mgを高める介入研究が行われ、透析患者にとって最適な血清Mg濃度やMg補給法が見出されることが期待されます。
血管が石灰化する機序
血管石灰化とは、骨や歯に存在するハイドロキシアパタイトという結晶が血管の内膜や中膜に沈着することで、血管が硬くなり、動脈硬化や心血管疾患のリスクを高めます。透析患者では、腎機能の低下に伴ってリンやカルシウムの代謝バランスが崩れることが多く、これが血管石灰化の原因とされています。
血管石灰化には、内膜粥状動脈硬化巣の石灰化であるアテローマ硬化型石灰化と、血管中膜の石灰化であるメンケベルグ型石灰化の二つのタイプがある。前者は、コレステロールや炎症性細胞などが堆積して形成されるプラークの内部に石灰化が生じるもので、後者は、血管平滑筋細胞が骨芽細胞様細胞に変化し、血管壁に骨組織が形成されるものである。透析患者では、特に後者の中膜の石灰化が多くみられます。
血管平滑筋細胞は、リンやカルシウムの代謝バランスが崩れた際に、重要な役割を果たす。リンは、Na依存性リン共輸送体(PiT-1)を介して血管平滑筋細胞に取り込まれると、ERKシグナル経路を活性化し、血管平滑筋細胞から骨芽細胞への形質転換を促進する。この過程では、骨芽細胞特異的な遺伝子(ALP,OPN,OCN,Runx2など)の発現が増加し、ハイドロキシアパタイトの沈着を引き起こす。また、FGF23というホルモンも、この形質転換を相乗的に増強することが報告されている。
血管石灰化は、透析患者の生命予後に大きく影響する。血管石灰化の程度は、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントの発症率と関連するほか 、全死亡率や心血管死亡率とも関連することがメタアナリシスで示されている。したがって、透析患者では、リンやカルシウムの代謝バランスを適切に管理し、血管石灰化の予防や進行の抑制を図ることが重要である。
マグネシウムが血管石灰化を抑制する効果はあるようですが、一度石灰化した血管をもとに戻すのは難しいと思われる。そのため、まずはリンをコントロールして血管石灰化を起こさないことが重要だと思います。
体内でのマグネシウムの調整(ホメオスタシス)
血液中のマグネシウム濃度は食事からの摂取量や腎臓や骨との間の移動量によって調整されます。食事から摂取したマグネシウムは主に小腸で吸収され、血液中に運ばれます。血液中のマグネシウムは腎臓で尿中に排泄されるか、骨や細胞内に移動します。
血液中のマグネシウムが不足すると、腎臓でマグネシウムの再吸収が促されたり、骨からマグネシウムを取り出して、マグネシウム量が一定になるように保とうとします。逆に、血液中のマグネシウムが過剰になると、腎臓でマグネシウムの排泄が増加したり、骨へマグネシウムが移動したりして、マグネシウム量が調節されます
食事として摂取したマグネシウムは基本的に小腸で吸収され(吸収率30~50%)、マグネシウムの1日の平均摂取量は男性で260mg、女性で234mgです。骨や軟骨から溶出したマグネシウムと小腸で吸収されなかったマグネシウムが糞便中に排泄されます。
透析患者におけるマグネシウムの調整
透析患者の血清Mg濃度を調節する方法としては、透析液のMg濃度を調整することや、食事からのMg摂取量を増減することが考えられます。食品中のMg含有量は日本食品成分表で確認できますが、一般には海藻類や豆類などの植物性食品に多く含まれています 。ただし、これらの食品はリンやカリウムなど他のミネラルも多く含むため、摂取量に注意する必要があります 。また、酸化マグネシウムなどの下剤は透析患者には禁忌です。
マグネシウムを多く含む食品
海藻類
- わかめ
- のり
- ひじき
ナッツ類
- アーモンド
- カシューナッツ
- マカダミアナッツ
豆類
- 大豆
- 豆腐
- 納豆
野菜類
- ほうれん草
- ごぼう
- とうもろこし
まとめ
今回は、透析患者の食事に必要なマグネシウム量と新基準値、予後改善の関係についてお伝えしました。マグネシウムは透析患者にとって重要なミネラルであり、今までは透析で除去する対象だったマグネシウムが、透析患者さんにとって大切であることがわかっていただけたでしょうか?
2020年から扶桑薬品からマグネシウム濃度の高い透析液が発売され、2022年にもニプロからマグネシウム濃度が高い透析液が発売されました。透析患者さんとマグネシウムを研究した論文は日本ではまだまだ少ないですが、新しい透析液が発売されたことで、今後さらに透析患者さんとマグネシウムの関係が明らかになってきくのではないでしょうか。
透析患者の方は、血清マグネシウム濃度の管理や食事療法について医師や栄養士に相談しながら、自分に合ったマグネシウム摂取量を見つけてください。最後までお読みいただきありがとうございました。この記事が透析患者の方々の健康や生活のお役に立てれば幸いです。
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