血液透析濾過(HDF)は、血液透析(HD)と血液濾過(HF)の長所を生かした最新の血液浄化法です。HDFでは、血液中に「置換液」と呼ばれる電解質液または透析液を注入して希釈しますが、その方法には「前希釈法」と「後希釈法」があります。それぞれどのような特徴や効果があるのでしょうか?また、どのような場合に使い分けるべきなのでしょうか?この記事では、HDFのしくみと希釈方法の注意点と使い分けのポイントについて解説します。
今回の記事はこのような方におすすめ!
- 透析室に働き始めたばかりの方
- 透析治療を行っている患者さんやそのご家族
- 患者さんの治療方法に悩んでいる透析室スタッフ
血液透析濾過(HDF)とは何か?
血液透析濾過(Hemodiafiltration:HDF)とは、血液透析(HD)と血液濾過(HF)の長所を生かした血液浄化法です。HDFでは、血液中に「置換液」と呼ばれる電解質液を注入して希釈し、拡散と濾過の両方の原理で血液中の水分や尿毒素物質を除去します。HDFは、小分子量から低分子量蛋白領域まで、幅広い溶質の除去が可能であり、死亡率や合併症の予防、栄養状態や生活の質の改善に有効であることが示されています。HDFでは、置換液を入れる場所や量によって希釈方法が異なります。それぞれにメリットとデメリットがあり、患者さんに合った治療法を選ぶことが重要です。
血液透析(HD)は拡散により小分子尿毒素の除去に優れ、血液濾過(HF)は限外濾過によって大分子尿毒素の除去に優れます。この二つの特徴を併せ持つ治療方法が血液透析濾過(HD+HF=HDF)になります。
HDFの分類
HDFでは、置換液を入れる場所(希釈部位)の違いから、 「前希釈法(pre-dilution:Pre)」・「後希釈法(post dilution:Post)」・「間歇補液(Intermittent Infusion Hemodiafiltration:IHDF)」に分けらます。
また置換液の種類によって、専用の置換液を使用する「オフラインHDF(OfflineHDF)」・透析液を使用する「オンラインHDF(OnlineHDF)」に分けられます。
この他に一般的ではありませんが、前後同時希釈法(pre&post dilution) という方法もあります。
オフラインHDFでは市販の置換液を使用するため大量に使用るとコストがかかるため後希釈で行われます。また透析液を使用する場合には大量置換が可能となり前希釈も可能となります。
間歇補液は透析膜から逆濾過で透析液を補液するため、オンラインHDFとなります。
種類 | 補液方法 | 補充液の種類 | 特徴 |
---|---|---|---|
オンラインHDF | 前希釈又は後希釈 | 透析液 | 安価の為大量補液が可能 |
オフラインHDF | 前希釈又は後希釈 | 専用の補充液 | コストがかかるため20L程度の補液 |
間歇補液HDF | 間歇的 | 透析液 | 間歇的に補液を行う |
AFBF | 後希釈 | 専用の補充液 | アルカリ剤を含まない |
プッシュプルHDF | 濾過と逆濾過を交互に行う | 透析液 | 濾過と逆濾過を交互に行う |
日本におけるHDFの患者割合(2021年末時点)
オンラインHDF | オフラインHDF | IHDF | AFBF | プッシュプルHDF | |
---|---|---|---|---|---|
患者割合 | 70.3% | 2.1% | 27.5% | 0.1% | 0.0% |
前希釈法・後希釈法・間歇補液の違い
前希釈方法
前希釈法(Pre)は、血液浄化器(ヘモダイアフィルタ)の流入側から置換液を注入して透析濾過を行う方法です。ヘモダイアフィルタを通る前に血液が希釈される(薄まる)ので、除去したい物質の血中濃度も低くなり、拡散による除去効率は低くなります。反面、フィルタの蛋白の目詰まり(ファウリング)が起こりにくく、経時的な性能低下を招きにくいという利点があります。
後希釈方法
後希釈法(post dilution:Post)は、濾過した後に血液浄化器の流出側から置換液を注入する方法です。除去した体液(濾液)は血漿由来のものなので、同じ置換液量を使うのであれば、前希釈法よりも効率よく除去できます。しかし一方で、前希釈法に比べて一般的にアルブミンの漏出量が多いため、置換液量と使用するフィルタの組み合わせに注意する必要があります。
一般に、前希釈法で後希釈法と同等の効果を得るには、約3から4倍程度の置換液が必要であると考えられています。
間歇補液
間歇補液(IHDF)とは、一定時間ごとに血液中に逆濾過(透析液側から血液側へ)として透析液を補充することで、血圧の安定や末梢循環の改善などの効果が期待される治療法です。具体的には、30分に1回、100~200mLの補液を行い、補液分も含めて除水をします。このように間歇的に補液をすることで、血管内の水分量や老廃物の移動が促進され、透析効率が向上すると考えられています。
各希釈方法のメリットとデメリット
前希釈のメリット
- 濾過速度に制限がなく、大量置換が可能です。
- フィルタの蛋白の目詰まり(ファウリング)が起こりにくく、経時的な性能低下を招きにくいです。
- 濾過量に比例して、低分子量タンパク領域の尿毒素の除去効率は高くなります。
前希釈のデメリット
- 前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣ります。
- 同一の置換液量で比較すると、後希釈に比べて効率が悪いです。一般に、前希釈法で後希釈法と同等の効果を得るには、約3倍程度の置換液が必要であると考えられています
前希釈の適応・使い分け
HDFの前希釈に適した患者は、以下のような人です。
- 低血液流量の患者
- 低アルブミンの患者
- フィルタの蛋白の目詰まり(ファウリング)を防ぎたい患者
主に食事量の低下した高齢の透析患者さんや、透析中に血圧の低下を起こす患者に適していると言えます。
後希釈のメリット
- 拡散による小分子量物質除去効率は前希釈よりも優れます。
- 前希釈よりも少ない置換量で低分子量タンパク領域の除去が可能です。
後希釈のデメリット
- 濾過量は血流量の25%程度が上限となります。
- アルブミンの漏出量が多くなります。
後希釈の適応・使い分け
HDFの後希釈に適した患者は、以下のような人です。
- 食事摂取量が多く拡散による小分子量物質除去効率を高めたい患者
- アルブミンが十分にあり栄養状態の良い患者
- 痒みやレストレスレッグ症候群などの症状が強い患者
- 高血流量の可能な患者
痒みやレストレスレッグ症候群を取り除くには大分量尿毒素の除去が必要になります。大分子量尿毒素の除去とともにアルブミンも抜けてしまうため、後希釈HDFは、元気でしっかり食事を摂れている患者に適していると言えます。
間歇補液のメリット
- 透析中の末梢循環の改善
間歇補液のデメリット
- 単時間当たりの除水速度の上昇
間歇補液の適応・使い分け
IHDFに適した患者さんは、以下のような人です。
- 低栄養(オンラインHDFに比べアルブミンが抜けにくい)
- 高齢者(オンラインHDFでは効率が良すぎる、タンパク質なども多く抜ける、でも除去効率は稼ぎたい)
- 血圧変動が大きい(循環血液量の維持)
- 末梢動脈疾患(循環血液量の維持)
IHDFは、間歇的に補液をすることで、末梢循環の改善や血圧の安定化などの効果が期待される治療法です。また、栄養状態への影響が少ないので、高齢者や栄養状態の悪い患者さんに適した治療法です。
まとめ
この記事では、血液透析濾過(HDF)のしくみと希釈方法の注意点と使い分けのポイントについて解説しました。HDFはHDよりも幅広い溶質を除去できる最新の血液浄化法であり、死亡率や合併症の予防、栄養状態や生活の質の改善に有効であることが示されています。HDFでは、前希釈法と後希釈法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。HDFでは、置換液量を適切に調整することが重要です。HDFは透析患者さんにとって有益な血液浄化法ですが、その効果を最大限に引き出すためには、医師や他職種の方がたと相談しながら、患者さん自身に合った希釈方法や置換液量を見つけることが必要です。この記事がHDFに関する知識や理解の向上に役立てば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
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