透析が長く続けると、手や肩が痛くなる。
指が曲げつらい。
このような痛みの悩みをもった透析患者さんは多いのではないでしょうか?この痛みの原因の一つに透析アミロイドーシスがあります。
腎不全によって透析治療を受けている患者さんには、アミロイドーシスのリスクが高まることが知られています。アミロイドーシスは、変性したタンパク質の沈着によって病気になることで、症状が進行した場合には重篤な合併症になります。今回は、透析患者さんがアミロイドーシスにかかる原因と治療法について詳しく解説します。
透析アミロイドーシスとは?
アミロイドーシスとは、タンパク質が異常に変性し、体内に排除する病気です。 アミロイドは、異常なタンパク質の繊維が集まってできる物質で、脳や神経、心臓、腎臓などに影響を与えますアミロイドーシスの症状は、病気の進行や影響を受けた臓器によって異なりますが、疲れや動悸、体重減少、浮腫、筋肉の萎縮などが見られます。
透析アミロイドーシス(DRA)はβ2-MGを前駆タンパク質とするアミロイドが全身に沈着することで、手根管症候群(CTS)などの骨関節疾患や心不全・消化器症状などをきたす合併症です。
アミロイドの発症機序
β2-MGが炎症や酸化ストレスにより、高次元構造異常をきたし中間体といわれる変性タンパクとなる。この中間体が重合化してアミロイド繊維タンパクを形成し、沈着するものと考えらています。
透析アミロイドーシスの原因
透析アミロイドーシスの発症には①β2-MGと②炎症性サイトカインが大きく関与しています。
純度の低い透析液とDRA
純度の低い透析液を使用すると、①β2-MGが高値、②ペントシジン高値、③IL-6やCRP高値になると報告があります。
日本の透析患者さんの生命予後が良いのは透析液がキレイだから?
日本の透析患者さんの生命予後が海外と比べて良好な理由の一つに透析液の清浄化があげられます。
透析アミロイドーシスの診断
主要症状が2項目以上を臨床的診断、主要1項目と副症状1項目以上では臨床的疑いとしている。
確定診断には病理診断が必要となります。
病理診断には採取した病変部を染色陽性かつ偏光顕微鏡での緑色偏光所見、およびβ2MG抗体に対する免疫学的陽性が必要です。
透析アミロイドーシスは確定診断が難しいため、自覚症状に注意が必要です。関節痛は安静時に増強することが多く、また透析中・透析後に痛みが増強する場合が多いと感じられます。
手根管症候群の診察にはティネル徴候、ファレン徴候で評価を行います。
骨嚢胞や破壊性脊椎関節症は単純X線写真で評価を行います。
骨嚢胞には疼痛などの症状がないためレントゲンで発見されることが多いです。
透析アミロイドーシスの治療
透析アミロイドーシスの予防・抑制には①β2-MGの積極的な除去、②炎症性サイトカインの抑えることが重要です。具体的な対策は下記に示します。
生体適合性の高い透析膜を使用する
生体適合性の高い透析膜を使用すると透析患者さんの慢性炎症や酸化ストレスを抑制できます。β2-MGは炎症により血中濃度が上昇することがわかっています。
β2-MGは白血球(特に単球・リンパ球)の表面に存在しており、炎症反応により白血球表面から離れて血中濃度が上昇すると考えられている。
生体適合性の高いハイフラックス膜を使用すると、β2-MGの除去量の増加に加え、白血球細胞からのβ2-の遊離が減少する可能性がある
Traut M, Haufe CC, Eismann U, Deppisch RM, Stein G, Wolf G. Increased binding of beta-2-microglobulin to blood cells in dialysis patients treated with high-flux dialyzers compared with low-flux membranes contributed to reduced beta-2-microglobulin concentrations. Results of a cross-over study. Blood Purif. 2007;25(5-6):432-40. doi: 10.1159/000110069. Epub 2007 Oct 23. PMID: 17957097.
ハイパフォーマンスメンブレンを使用、小分子タンパク質の濾過・吸着特性の優れた透析膜を使用する。
β2-MGを除去して、DRAの発症を抑制するには①OnlinHDFやハイフラックス透析膜の使用や②β2-MG吸着カラムであるリクセルなどが有用です。
β2-MGの除去率80%以上で新規のCTS発症が低い可能性がある。
Hoshino J, Yamagata K, Nishi S, Nakai S, Masakane I, Iseki K, Tsubakihara Y. Significance of the decreased risk of dialysis-related amyloidosis now proven by results from Japanese nationwide surveys in 1998 and 2010. Nephrol Dial Transplant. 2016 Apr;31(4):595-602. doi: 10.1093/ndt/gfv276. Epub 2015 Jul 22. PMID: 26206763.
透析膜のβ2-MGの吸着特性はPMMA>AN69>PS、PEPA>CTAと言われている。いわゆるS型と言われる透析器が吸着特性が高い。
PMMA膜を使用すると、セルロース膜に比べてβ2-MGが低く関節痛・手根管症候群・骨嚢胞の発生が少ない
Aoike I, Gejyo F, Arakawa M. Learning from the Japanese Registry: how will we prevent long-term complications? Niigata Research Programme for beta 2-M Removal Membrane. Nephrol Dial Transplant. 1995;10 Suppl 7:7-15. doi: 10.1093/ndt/10.supp7.7. PMID: 8570083.
血液透析濾過・血液濾過の選択
通常の血液透析(HD)より、血液透析濾過(HDF)・血液濾過(HF)のほうが透析アミロイドーシスの発症や悪化の抑制に有効である。
HDのDRA悪化リスク比を1とすると、ハイフラックス膜使用では0.489、オフラインHDFでは0.117、オンラインHDFでは0.013であった。
Nakai S, Iseki K, Tabei K, Kubo K, Masakane I, Fushimi K, Kikuchi K, Shinzato T, Sanaka T, Akiba T. Outcomes of hemodiafiltration based on Japanese dialysis patient registry. Am J Kidney Dis. 2001 Oct;38(4 Suppl 1):S212-6. doi: 10.1053/ajkd.2001.27449. PMID: 11576958.
近年、オンラインHDFの普及して大量置換オンラインHDFが行えるようになってきている。大量置換オンラインHDFは抗炎症効果、酸化ストレス抑制効果に優れています。また、β2-MGの除去に関しても優れている。
超純水透析液の使用
純粋透析液とは、透析液にエンドトキシンが存在していないこと。エンドトキシンは発熱物質と言われ、炎症性サイトカインの発生に大きく関与しています。
従来の透析液から超純水透析液に変更したら、ペントシジンの低下・IL-6の低下、CRPの低下したとの報告があります。
超高純度透析液は、血液透析患者のベータ2MG、ペントシジン、および炎症マーカーの血漿レベルを低下させます。超高純度透析液の使用は、透析関連アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、栄養失調などの透析の合併症の予防および/または治療に役立つ可能性があります。
Furuya R, Kumagai H, Takahashi M, Sano K, Hishida A. Ultrapure dialysate reduces plasma levels of beta2-microglobulin and pentosidine in hemodialysis patients. Blood Purif. 2005;23(4):311-6. doi: 10.1159/000086554. Epub 2005 Jun 23. PMID: 15980621.
しかし、透析液の清浄化と透析アミロイドーシスの発症の減少と直接的な検討をした報告はなく、透析液と透析アミロイドーシスとの関係で確実な答えは未だ出ていないのが現状と思いますが、世界的に見ても透析液の清浄化が高い日本の透析患者さんが生命予後が高いことが一つの指標ではないかと考えます。
β2-MG吸着カラムの使用
β2-MG吸着カラムの使用することで透析アミロイドーシスの症状緩和、関節の可動域の改善、骨嚢胞の縮小に有効であると報告があります。
患者の自己評価に基づくと、症状の悪化は患者の84.9〜96.5%で抑制されました。患者のうち、91.3%は全体的な症状の悪化が抑制されたと感じ、主治医は72.8%の患者に対して治療が有効または部分的に有効であると評価しました。
Gejyo F, Amano I, Ando T, Ishida M, Obayashi S, Ogawa H, Ono T, Kanno Y, Kitaoka T, Kukita K, Kurihara S, Sato M, Shin J, Suzuki M, Takahashi S, Taguma Y, Takemoto Y, Nakazawa R, Nakanishi T, Nakamura H, Hara S, Hiramatsu M, Furuya R, Masakane I, Tsuchida K, Motomiya Y, Morita H, Yamagata K, Yoshiya K, Yamakawa T; Society of β2-Microglobulin Adsorption Therapy. Survey of the effects of a column for adsorption of β2-microglobulin in patients with dialysis-related amyloidosis in Japan. Ther Apher Dial. 2013 Feb;17(1):40-7. doi: 10.1111/j.1744-9987.2012.01130.x. Epub 2012 Nov 20. PMID: 23379492.
まとめ
透析アミロイドーシスの原因の発見、透析治療の方法の発展により透析アミロイドーシスの発症は少なくなっております。しかし、発症抑制や悪化の抑制は行われているが、決してなくなったものではなく、いまだに透析患者さんのQOLやADLを損なう重大な合併症であることには変わりありません。
透析患者さんにとって、アミロイドーシスは深刻な合併症の一つですが、早期発見と治療までにその進行を抑えることができます。定期的な検査や医師の指導継続、健康管理に取り組むことが大切です。透析治療を受けた患者さんは、アミロイドーシスについての正しい知識を身につけ、自己の健康管理に役立てていただきたいと思います。
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