なぜ透析液の清浄化が必要なの?
清浄化のポイントや注意点は?
現在の透析治療において”透析液の清浄化”もとても重要です。1980年代より透析液の清浄化は議論されてきており、日本においては、国際標準化機構(ISO)よりも厳しい基準を設け透析液の清浄化に取り組んでおります。そのおかげで日本の透析液は世界一の水準となり、日本の透析患者さんは世界でもっとも長生きできるようになりました。
なぜ透析液の清浄化が必要なのか?
透析患者さんの死亡率とエンドトキシン濃度
Dialysis fluid endotoxin level and mortality in maintenance hemodialysis: a nationwide cohort study
(維持血液透析における透析液エンドトキシンレベルと死亡率:全国コホート研究)
Higher facility endotoxin levels in dialysis fluid may be related to increased risk for all-cause mortality among hemodialysis patients. Correcting this modifiable facility water management practice might improve the outcome of hemodialysis patients.
Takeshi Hasegawa.Am J Kidney Dis. 2015 Jun;65(6):899-904.
これをグーグルで訳すと
透析液中の毒素レベル(エンドトキシン)の上昇は、血液透析患者さんのすべての死亡リスクの増加に関連している可能性があります。この変更可能な施設の水質管理を改善すると、血液透析患者の転帰が改善される可能性があります。
この文献は,2006年末の透析医学会統計調査をもとに日本の2,746施設、130,781人の透析患者さんの透析液のエンドトキシン濃度と死亡率を検討したもので、結果として1年間の死亡率はエンドトキシンが0.1EU/ml以上で最も高く、エンドトキシンが0.001EU/ml未満よりも死亡率が28%高い結果となっています。
なぜエンドトキシンが高いと死亡率が高いのか?
エンドトキシンが大量に体内に入るとショック(急激な血圧低下や悪寒や発熱)を起こします。また、エンドトキシンによって炎症性物質が刺激されることにより、動脈硬化やアミロイドーシスの原因になります。
また炎症状態はMIA症候群やサルコペニア・フレイルにも関係します。
サルコペニア・フレイルに関する記事はこちら
その他の透析液清浄化の効果
- 慢性炎症の改善
- β2マイクログロブリンの低下(アミロイドーシスや手根管症候群の低下)
- 貧血の改善、エリスロポエチンの反応性の改善
- 栄養状態の改善
- かゆみやイライラ症候群の改善
これらの効果もエンドトキシンによる炎症性物質の刺激が少なくなったことで得られる効果だと思います。
透析液清浄化の基準
清浄化の定義
透析療法に用いる透析用水・透析液に関し、化学物質の汚染、生物学的汚染がなく、且つ安全に治療を行うことのできるものとし、それらを作り出す装置の設計、管理方法を含め清浄化と定義する。
2016年版透析液水質基準達成のための手順書Ver 1.00
2016年版 透析液水質基準
現在、透析液の管理基準となっているものが「2016年版 透析液水質基準」になります。
2008年版からの改定の要点は…
- 透析液水質基準のみの報告とする
- 用語の統一(ISOと一致させる)
- オンラインHDF機器が承認された機器の使用を推奨
- ETRFの基準に従うことを明記
- 化学的汚染基準を追加
- 透析用水作製装置に関する管理基準を補足として追加
生物学的汚染の基準
標準透析液(Standard dialysis fluid)
- 基準値:ET値が0.005EU/ml未満、生菌数が100CFU/ml未満
標準透析液とは、すべての透析施設で守るべき最低限の基準のことです。
このET値は世界で最も厳しい基準になります。
超純水透析液(Ultra-pure dialysis fluid)
- 基準値:ET値が0.001EU/ml未満、生菌数が0.1CFU/ml未満
透析液はキレイな方が透析患者さんの生命予後は改善されます。よって、超純水透析液は、基本的にすべての血液療法に推奨される透析液の水質基準とすべきだと思います。
採取部位 | エンドトキシン | 生菌 | |
透析用水 | 透析用水作製装置の出口後 | 0.05EU/ml未満 | 100CFU/ml未満 |
標準透析液 | 透析器入口 | 0.05EU/ml未満 | 100CFU/ml未満 |
超純水透析液 | 透析器入口 | 0.001EU/ml未満 (測定感度未満) | 0.1CFU/ml未満 |
透析液由来オンライン調整透析液 | 補充液抽出部位 | 無発熱物質 | 無菌 |
こちらは透析液の水質管理基準であり、実際はこの基準値の50%をアクションレベルとして、アクションレベルを超えたら、汚染の原因、汚染箇所の特定、消毒方法の見直しなど行う必要がある。
HD治療しか行えない透析監視装置では透析器入口で測定し、オンラインHDFを行う透析監視装置では1本目のETRFの入口と透析器入口の2箇所で測定を行います。
これはETRFでリークが起こった場合(単一故障状態)の場合でも水質が担保できるようにするためにETRFは2本を直列に設置しており、1本目の入口で標準透析液の水質を担保できていることを確認します。
化学汚染物質の基準
2016年版透析液水質基準ではエンドトキシンや生菌などの生物学的汚染基準に加えて、アルミニウムや銅、フッ素などの微量元素の化学汚染基準が新たに含まれました。
汚染基準物質 | 症状 |
アルミニウム | 脳症・骨軟化症 |
クロラミン | 溶血性貧血 |
銅 | 溶血性貧血 |
フッ素 | 掻痒症・心室細動 |
化学汚染物質の管理には”原水水質の管理”と”透析用水作成装置の管理”が重要となります。原水水質の管理を行い、次に透析用水作成装置の管理を行うことで。透析用水が化学的汚染基準に適合していると言えます。
日本の透析室では8割の以上が施設が透析用水を作るのに水道水を使用しており、水道法では51項目の化学汚染基準を設けています。そのため水道水を使用していれば51項目の基準内であることが担保されており、透析施設で行う化学汚染物質の管理は、毒性が証明されている12項目を実測する必要があります。
化学汚染物質 | 透析用水基準 | 水道法基準 |
アルミニウム | 0.01 | 0.2 |
総塩素 | 0.1 | 基準なし |
銅 | 0.1 | 1 |
フッ素化合物 | 0.2 | 0.8 |
鉛 | 0.005 | 0.01 |
硝酸塩 | 2 | 10 |
硫酸塩 | 100 | 基準なし |
亜鉛 | 0.1 | 1 |
カルシウム | 2 | 300 |
マグネシウム | 4 | 300 |
カリウム | 8 | 基準なし |
ナトリウム | 70 | 200 |
以上が、透析施設で毎年1回測定しなければならい12項目になります。
ISO(国際標準化機構)では12項目の他にアンチモン・ヒ素・バリウム・ベリリウム・カドミウム・クロム・水銀・セレン・銀・タリウムに加えて22項目を基準にしています。
原水の管理
原水は水道法による水道法基準を満たしていることを水道局の測定結果を確認することで管理を行います。
井戸水(地下水)を使用する場合は、井戸水が水道法に適合しているのかを確認しなければなりません。そのため水質検査計画の作成が必要です。
原水に水道水を使用している場合と地下水を使っている場合で管理方法が違います。水質検査計画を作成する際は東京都福祉保健局のサイトが参考になります。
透析用水作成装置の管理
水質の管理
- 供給水源…水道法基準に適合しているか
- 原水…水道法基準に適合しているか
- RO原水…なし
- RO水…電導度25μS/㎝(2.5mS/m)以下
- 透析用水…化学的汚染基準、生物学的汚染基準
機器・ユニットの管理
- プレフィルタ…製造業者の管理基準
- 軟水化装置…試薬による確認、青色になれば適合
- 活性炭ろ過装置…総塩素が0.1mg/L
- ROユニット…電導度25μS/㎝(2.5mS/m)以下
- 紫外線殺菌灯…製造業者の管理基準
化学汚染物質の除去に関与するのは”活性炭ろ過装置”と”ROユニット”の2つになります。
こちらの記事でROユニットの説明をしています。↓
化学汚染物質における活性炭ろ過装置の機能
活性炭ろ過装置の機能:総塩素の除去を行う
- 管理の基準
活性炭ろ過装置の出口の総塩素濃度が0.1mg/L未満 - 測定日
透析施行日に測定- 原水の総塩素濃度が1mg/L以上になったら、測定頻度を透析治療毎に変更する。
総塩素=遊離塩素+結合塩素
遊離塩素…次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム
結合塩素(アンモニウムと結合したもの)…クロラミン
殺菌作用は遊離塩素の方が高いですが、残留性(危険性)は結合塩素の方が高くなります。
また活性炭ろ過装置で除去される塩素は、活性炭との反応速度の違いにより遊離塩素の方が早く除去され、結合塩素の方が除去しにくくなります。
化学汚染物質におけるROユニットの機能
ROユニットの電気伝導阻止率93%以上、またはRO水の電気伝導率25μm/㎝(2.5mS/m)以下
本来は電気伝導阻止率で管理を行います。
RO膜の化学汚染物質の阻止性能
ほとんどの化学汚染物質が阻止率93%以上であるのに対して。”硝酸性窒素”だけが阻止率が低く、61%となっています。
水道水が水道法の基準値の上限値だと仮定すると、RO阻止率が93%だと計算上化学的汚染基準に満たない項目はアルミニウム・硝酸性窒素・亜鉛・カルシウム・マグネシウムです。カルシウム・マグネシウムは軟水化装置で除去できます。
化学汚染物質の管理を行う場合はアルミニウム・硝酸性窒素は原水の濃度を注視する必要があります。
まとめ
日本の透析液の水質は世界一の基準です。日本の水質管理は、1994年に行われた「九州HDF検討会」で”オンラインHDF施行時の水質管理の提案”に始まります。ここから何度も改訂が行われ現在の基準に至ります。これは諸先輩方の弛まぬ努力の結果だと思っています。この努力におかげで日本の透析医療の品質は保たれていると言えます。
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
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