エビデンスに基づいた透析医療~透析でよく使われる指標~

透析
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「エビデンスに基づく医療」って、よく聞くけど具体的は?

「エビデンスに基づく医療」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

エビデンスに基づく医療とは

良心的に、明確に、分別をもって最新最良の医学知見を用いる医療のあり方

Wikipedia

言い換えると
その治療方法がよいと判断できる証拠に基づいて治療を行うこと
と言えるのではないでしょうか。

日本では1998~1999年に厚生労働省・医療技術評価推進評価検討会では根拠(エビデンス)に基づく医療を普及させるためにガイドラインの作成に研究助成を行うことを決定し、エビデンスを元にガイドラインの作成が促進されました

透析医療の分野でもエビデンスをもとにした数多くのガイドラインが作成されています。

多くの医療従事者にとってエビデンスとは、以前に担当していた患者で効果的だったと記憶している治療・薬剤、指導者や同僚から受けた助言、ならびに偶然選んだ学術論文・抄録・シンポジウム、ならびに広告などで「一般的に行われていること」について大まかな印象が漠然と組み合わさったものである場合が多いと思われます。

特に透析医療では、「今までこのやり方でやってきたから」「この方法で問題がないから」と言う理由だけで、漫然と同じ治療を行っている場合が多いと思います。

透析医療で用いられるガイドライン

  • 維持血液透析ガイドライン
  • 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療ガイドライン
  • 血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン
  • 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン
  • 血液透析患者の糖尿病治療ガイドライン

このように、透析分野だけでも沢山のガイドラインが作成されています。

治療の効果を評価する指標

標準透析量(KT/V)

標準化透析量は、患者さんの一回の治療の透析量を表します。

KT/V=クリアランス×透析時間÷体液量

「K」はクリアランス(透析効率)、「T」は透析時間、「V」は体液量を表しています。つまり透析効率と透析時間を掛けて、体液量で割ったもので、患者さんの体液全体がどのくらい透析されたかという考え方です。

1.透析量は、尿素のsinglepool KT/V(spKT/V)を用いることを推奨する。
2.透析量は、月1回以上の定期的な測定を推奨する。
3.実測透析量として、以下の値を採用する。
  1)最低確保すべき透析量としては、spKT/V 1.2を推奨する。
  2)目標透析量としては、spKT/V 1.4以上が望ましい。
4.透析時間は、4時間以上を推奨する。

維持血液透析ガイドライン:血液透析処方 透析会誌46(7) 587~632.2013

透析量の指標としては、singlepoolKT/V(spKT/V)、equilibratedKT/V(eKT/V)、standardKT/V(stdKT/V)などがありますが、透析処方ガイドラインではspKT/Vを推奨しております。

ドイリー
ドイリー

この指標は、週3回の治療で1回の治療が6時間未満の患者さんを対象にしています。なので、週2回の治療の方や1回の治療で6時間以上行っている(長時間透析)患者さんは別の指標で透析量を評価してあげる必要があると思います。

患者さんの状態を評価する指標

第4章 適切な透析量・治療効果を得るための評価

1.透析治療効果の評価は短期的指標と中長期的指標の両方を用いて定期的に行うことを推奨する。
 1)短期的指標としては、透析中の循環動態と尿毒素除去効果を用いて評価する。
 2)中長期的指標しては、尿毒素の維持レベル、栄養状態、生命予後に関するQOLの指標を用いて評価する。
2.治療効果の評価に基づき、必要に応じて透析処方を変更することが望ましい

維持血液透析ガイドライン:血液透析処方 透析会誌46(7) 587~632.2013

栄養状態、生命予後に関するQOLの指標にはSGAやMISなどが有名で、どちらも正確性が比較的高いと評価されております。しかし、主観的評価で検査に時間がかかったり手技が煩雑で日常業務の中で行うのは難しいという欠点があります。

その点、GNRIは客観的評価を行えて、透析患者さんに当てはめた結果、最も簡便かつ正確性が高く有用であることがわかっております。

GNRI

GNRIはもともと高齢者の入院患者さんと栄養学的に生命予後のリスクを評価する方法として考案されました。

GNRI=(14.89×透析前アルブミン値)+(41.7×(体重÷理想体重))

この計算式を見ていただくとわかると思いますが、アルブミン値が高いとGNRIの数値は上がり、体重が理想体重を上回ればGNRIの数値は上がります。

GNRIの評価

  • GNRIが82未満を重度リスク
  • 82以上92未満を中程度リスク
  • 92以上98未満を軽度リスク
  • 98以上をリスクなし

標準化蛋白異化率(nPCR)

nPCRは安定した無尿の透析患者さんにおける蛋白摂取量の指標となります。透析前後のBUN値から、蛋白質を分解した速度を求め、摂取した蛋白質量を算出したものです。

普段の診療で透析患者さんの採血は透析前後で行うと思いますが、安定した透析患者さんの透析前のBUN値は、次回の透析前のBUN値と同じ値であると仮定したときに、透析間で蓄積するBUNは蛋白質摂取量と等しいことからBUNの前後の値から透析間の蛋白摂取量を算出したものです。

透析患者さんの蛋白摂取量の基準として、体重1kgあたり1日に0.9g~1.2gの蛋白摂取が適切とされています(透析患者の食事管理2014)

ドイリー
ドイリー

まだ尿量のある患者さんでは、透析前のBUNの値が低くなるので、計算上のnPCRは低くなります。

%クレアチニン産生速度(%CGR)

%クレアチニン産生速度は、透析患者さんの筋肉量の指標として用いられます。クレアチニンは筋肉に含まれる蛋白質の一種であるクレアチンが筋肉を動かすエネルギーとして使われた後の老廃物です。透析前後の体重・クレアチニン値・透析時間からクレアチニン産生速度を算出したものです。算出したクレアチニン産生速度を同性同年齢のクレアチニン産生速度と比較して%で表記してあります。よって100%以上ある場合は平均以上の筋肉があることになります。

クレアチニン産生速度が高ければ、それだけ筋肉量が多いと推定されます。またエネルギー源でもあるので活動量の多い患者さんでもクレアチニン産生速度は高くなります。

ドイリー
ドイリー

nPCRと同様に、尿量のある患者さんでは%CGRも低くなりますので、注意が必要です。

ボディマス指数(BMI)

ボディマス指数は体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数です。どの程度の肥満か、または痩せているかを評価します。

BMI=体重÷(身長×身長)

WHOの基準だと、BMI18~25が標準と言われておりますが、透析患者さんではBMIが高値ほど生命予後が良いと言われております。

NRI

NRIは2019年に透析医学会から発表された新しい栄養のスクリーニング指標です。

栄養不良患者さんの早期発見には、体格・食事量・筋肉量など複数の栄養評価による栄養状態の把握が必要です。そこで、臨床現場でリスクの高い患者さんを最初にスクリーニングする指標としてNRIが開発されました。

NRIはアルブミン・BMI・コレステロール・クレアチニンをスコアして評価を行います。

  • 低Alb:65歳未満Alb3.7未満、65歳以上3.5未満・・・・・・・・・・・スコア4
  • 低BMI:BMI20以下・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スコア3
  • Tcho異常:Tcho130未満・・・・・スコア1、Tcho220以上・・・・・・スコア2
  • 低Cr:65歳未満男Cr11.6未満・女Cr9.7未満、65歳以上男Cr9.7未満・女Cr8.0未満・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スコア4

合計スコアが0~7が低リスク、8~10が中リスク、11以上を高リスクと評価します。

最後に

今回は透析医療で用いられる指標をご紹介しました。

しかし、臨床の現場では指標の数値だけでなく、患者さんの状態・望むものや価値観、または病院の理念・治療方針などを考慮して日々の診療に役立てていただきたいと思います。

今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。

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