透析治療で使われるセルロース膜の種類と特徴を徹底解説

透析
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透析治療といえば、血液中の老廃物や余分な水分を除去するために必要なものですが、その際に重要な役割を果たすのが透析膜です。透析膜とは、血液と透析液とを隔てる半透膜のことで、血液中の物質を選択的に透過させることで浄化する働きがあります。透析膜にはさまざまな種類がありますが、今回はその中でもセルロース膜について詳しく解説していきたいと思います。
セルロース膜とは、綿花などの植物繊維を原料とする透析膜で、透析の黎明期から利用されてきた歴史ある膜です。セルロース膜にはどのような特徴があり、どんな患者さんに適しているのでしょうか?この記事では、セルロース膜の種類や性能、メリットやデメリットなどについてわかりやすくご紹介します。

透析治療とは何か、どのような患者さんが必要とするか

まずは透析治療の目的と原理について説明します。

透析治療とは、腎臓の機能が低下した場合に、その機能を代替する治療のことです。透析治療には血液透析と腹膜透析の2つの方法がありますが、ここでは血液透析について説明します。
血液透析の基本原理は「拡散」と「限外濾過」です。拡散とは、溶質(老廃物や電解質など)が高濃度から低濃度へ移動する現象です。限外濾過とは、水分や溶質が圧力差によって血液側から透析液側に移動する現象です。
拡散では、血液中の老廃物や電解質が透析膜を通して透析液へ移動します。これにより、血液中の老廃物や電解質の量を調整し、pHも維持します。限外濾過では、圧力差によって水分や溶質が透析膜から移動されます。この2つの作用によって、血液中の余分な水分や老廃物を除去します。

透析の原理
  • 拡散…主にBUNなのど小分子量尿毒素の除去を行う
  • 限外濾過…水分と大分子量尿毒素の除去を行う
ドイリー
ドイリー

限外濾過でも水分と一緒に小分子量尿毒素も除去されますが、体内の濃度と除去した濃度が一緒のため、見た目の濃度に変化はありません。

透析膜とは何か、どのような種類があるか

透析膜とは、透析治療で血液中の老廃物や水分などを除去するために使用される膜のことです。透析膜には、セルロース系と合成高分子系の2種類があります。

セルロース系の透析膜は、綿を原料に作られた親水性の高い膜で、生体適合性が良く、血液凝固や補体活性化などの副作用が少ないです。しかし、除去性能は低く、乾燥すると透水性が下がるためグリセリンが塗られています。セルロース系の透析膜には、均質構造のセルロースアセテート(CTA)と非対称構造のアシンメトリックトリアセテート(ATA)があります。 合成高分子系の透析膜は、化学的に合成された疎水性の高い膜で、除去性能が高く、中分子やサイトカインなども除去できます。しかし、親水化剤のポリビニルピロリドン(PVP)を含むものが多く、PVPによるアレルギーを起こす場合があります。合成高分子系の透析膜には、ポリスルホン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルスルホン(PES)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリアクリルニトリル(PAN)などがあります。

透析膜の基礎から学びたい方はこちらの記事

セルロース膜の種類

セルロース膜の歴史は古く、Kolffが最初に行った透析器はセロファンチューブ(再生セルロース)を用いたものでした。しかし再生セルロースのヒドロキシ(OH)基が生体不適合反応の原因となり、OH基を酢酸(アセチル基)で置き換えたセルロース膜が開発されました。アセチル基の数が 1 つ,2 つ,3 つと増えるにつれ,セルロースモノアセテート(CA),セルロースジアセテート(CDA),セルローストリアセテート(CTA)と呼び、アセチル基の数が増えるにつれ疎水性は高まるが,膜の膨潤度が低下して薄膜化が可能となるため,透水性はむしろ上昇します。

ドイリー
ドイリー

医療用ではセルローストリアセテートが主に使用されおり、透析医療ではセルロース膜と言えばセルローストリアセテートの事を言います。

セルロース膜のメリットとデメリット(生体適合性、除去性能、目詰まりなど)

セルロース膜のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 親水化剤のポリビニルピロリドン(PVP)を含まないため、過敏反応を起こしにくい
  • 生体適合性が良く、血液凝固や補体活性化などの副作用が少ない
  • 機械的強度が高く、膜を薄くできるため、拡散性能が高い
  • 膜の荷電が低いため膜の表面に蛋白質などの付着が少ない
  • ドライタイプの為、凍結や輸送時の衝撃によるリークが起きにくく、輸送費も安くなる
ドイリー
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蛋白の付着が少ないため透析膜の目詰まりが起こりにくい為、透析治療後半の除去性能の低下しにくくなります。

一方、セルロース膜のデメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 除去性能が低く、中分子やサイトカインなどを除去できない
  • 乾燥すると透水性が下がるため、グリセリンが塗られており、十分なプライミングが必要
ドイリー
ドイリー

以前は白血球の減少などが起こりやすく、「セルロース膜は生体適合性が悪い」と印象を持っている方も多いと思いますが、現在は改良されて生体適合性は格段に良くなっていると思います。

セルロース膜を使用する際の注意点やコツ(プライミングや洗浄など)

セルロース膜を使用するうえでの注意点としては、以下のような点があります。

  • グリセリンが塗られているため、プライミング時には十分に洗浄すること
  • グリセリンにより血糖値や血中浸透圧が上昇する可能性があるため、糖尿病や心不全などの患者さんには注意すること
  • 除去性能が低いため、中分子やサイトカインなどの除去が必要な患者さんには不適切であること
  • 乾燥すると透水性が下がるため、保管時や使用前には湿度を保つこと

セルロース膜の代表的な製品名や特徴(CTA膜やATA膜など

透析治療で使用されるセルロース膜の代表的な製品名や製品の特長については、以下のようになります。

CTA膜

CTA膜は、セルロースの水酸基をアセチル基に置換したもので、生体適合性が高く、補体活性化や白血球減少などの副作用が少ないです。また、薄膜化が可能で、拡散性能が高いです。グリセリンが塗られているため、プライミング時には十分に洗浄する必要があります。

ATA膜

ATA膜は、セルロースの一部の水酸基をアセチル基に置換したもので、非対称構造を持ちます。ATA膜は、CTA膜よりも中分子除去能が高く、サイトカイン吸着能もあるとされています。また、生体適合性も高く、補体活性化や白血球減少などの副作用が少ないです。CTA同様にグリセリンが塗られているため、プライミング時には十分に洗浄する必要があります。

CTA膜とATA膜の違い

CTA膜とATA膜の違いについては、以下のようになります。

CTA膜はセルロースの水酸基をアセチル基で置換したもので、均質構造をしています。ATA膜はCTA膜の表面を平滑化したもので、非対称構造をしています。

ATA膜は新たな紡糸技術によって、従来のCTA膜よりも膜表面の凹凸がなくなりました。これにより、膜へのタンパク質の吸着や目詰まりが抑制され、抗血栓性や透水性能が向上しました。付着量は約4分1程度まで少なくなっています

ATA膜はセルロース系で唯一ヘモダイアフィルターとして使用できる透析膜です。また、PVPやBPAといった親水化剤が含まれていないヘモダイアフィルターでもあります。

ドイリー
ドイリー

CTAとATAのタンパク質の付着量を比較した実験では、ATAの方が4分1程度少なくなります。

セルロース膜の適応患者

CTA膜とATA膜はどちらもセルロース系の透析膜ですが、適応する患者さんには違いがあります。

CTA膜は均質構造で、薄膜化が可能で、小分子の除去に優れています。補体の活性化や白血球減少の作用も少なく、生体適合性が高いです。PVPやビスフェノールAといった親水化剤も含まれていません。導入期や血圧の低い方など、マイルドな透析を希望する方に適しています。

ATA膜はCTA膜の表面を平滑化した非対称構造で、タンパク質の吸着や目詰まりが抑制され、抗血栓性や透水性能が向上しています。セルロース系で唯一ヘモダイアフィルターとして使用できる透析膜で、PVPやビスフェノールAといった親水化剤も含まれていません。中分子の除去に優れており、炎症反応の強い方や残血が多い方などに適しています。

まとめ

セルロース膜は、透析治療で使用される膜の種類の一つです。セルロース系の膜には、再生セルロース、表面改質セルロース、セルローストリアセテート、セルロースアシンメトリックトリアセテートの4種類があります。それぞれの膜には、特徴や適応が異なります。この記事では、それらの膜について詳しく解説しました。

透析治療は、患者さんの状態やニーズに合わせて、最適な膜を選択することが重要です。セルロース系の膜は、生体適合性や抗血栓性に優れた膜であり、多くの患者さんに利用されています。しかし、セルロース系の膜にも欠点や注意点があります。例えば、PVPやビスフェノールAといった親水化剤が含まれている場合は、アレルギー反応を起こす可能性があります。また、中分子の除去能力は合成高分子系の膜に劣ります。

透析治療を受ける患者さんは、自分が使用している膜の種類や特徴を知っておくことが望ましいです。それによって、透析治療の効果や安全性を高めることができます。また、医師や看護師などの医療スタッフともコミュニケーションをとりやすくなります。この記事が、透析治療で使用されるセルロース膜について理解する一助となれば幸いです。

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