AN69膜の真実を暴く!透析膜の種類と特徴を知らないと損する理由~生命予後やQOLに大きな影響~

透析
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透析施設で働いているスタッフの皆さん、あなたが治療で使用している透析膜は何でしょうか?透析膜の種類や特徴を知っていますか?

実は、透析膜によって透析効果や生体適合性、生命予後やQOLに大きな差が出ることをご存知でしょうか?今回は、世界で唯一の緻密構造であり、高い親水性とサイトカイン吸着特性を持つAN69膜について、その真実を暴きます。AN69膜を知らないと損する理由や、メリット・デメリット、注意点などを詳しく解説します。AN69膜を知ることで、皆さんの透析治療の可能性が大きく広がることと思います。ぜひ最後までお読みください。

ドイリー
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PAN膜とAN69膜は、ともにアクリロニトリルをベースとする合成高分子膜ですが、PAN膜は、アクリロニトリルとメタクリル酸の共重合体で、AN69膜は、アクリロニトリルとメタリスルホン酸ナトリウムの共重合体でできています。

ポリアクリルニトリルは1969年に世界初の合成高分子膜として開発されました。ポリアクリルニトリルは一般名であって、論文などではPAN膜と表記されます。この記事ではAN69膜について説明します。

AN69膜とは?

AN69膜は、1969年に世界初の合成高分子膜として開発されました。開発年にちなんでAN69と名付けられました。AN69膜は、高い生体適合性とサイトカインなどの炎症性物質を除去する能力にも優れており、急性期治療や敗血症などの重症患者の治療に適した透析膜として広く使用されています
現在発売されている透析器は中空糸型がほとんどですが、AN69膜は発売当初の積層型として販売されており、開発されて50年以上経ちますが、それでも今なお使われ続けています。

ドイリー
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中空糸型
積層型

左が現在主流で使用されている中空糸型で、右がAN69で使用されている積層型になります。

AN69の構造

AN69は疎水性のアクリルニトリル(AN69ポリマー)と親水性のメタアクリルスルホン酸ナトリウムによって構成されています。
膜の構造は、膜の断面が内表面から外表面まで均一な孔径を持つ対称膜であり、これは膜の吸着特性において重要な役割を果たします。また、他の透析膜は膜の”孔の孔径”・”孔数”によって溶質の除去性能が決まりますが、AN69膜はアクリルニトリル鎖の間のスルホン鎖領域を通って物質の移動がされます。

AN69膜に含まれるメタリルスルホン酸ナトリウムのスルホネート基がAN69膜に陰性荷電をもたせています。この陰性荷電がAN69膜の特徴の一つである吸着特性につながります。

しかし、この陰性荷電と血液が接触すると血管拡張物質であるブラジキニン産生が促進し、ACE阻害薬を服用している患者さんですと血圧低下などのアナフィラキシー症状を起こす場合があるので注意が必要です。現在では、AN69膜にポリエチレンイミンを表面処理することでブラジキニンの産生を減少させ,生体適合性を向上させたAN69ST膜も発売されています。

AN69膜は、膜の化学的性質と特殊な製造方法によって、メタリルスルホン酸ナトリウムの親水性を生かしたハイドロゲル構造をしています。ハイドロゲル構造により膜の70%が水分であり生体適合性に貢献しています。またこのハイドロゲル構造は、中空糸の血液接触表面での吸着のみならず、透析液接触側にかけてバルク層全体に浸透することで吸着体積を大きくし、より効率良くサイトカインを吸着する効果があると考えられています。

ドイリー
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ハイドロゲルとは、水を内部に含む物質の総称であり、高分子などの固体が水を吸い込んで膨潤し、流動性がない形態となったものです。ハイドロゲルは高分子の網目構造に水が入り込んだ構造体であり、その含水率は70~90%にもなります。つまり、AN69膜は水分を多く含んだゲル状の膜と言えます。

多くの合成高分子膜では、透析膜に親水性を持たせるためにPVP(ポリビニルピロリドン)を加えていますが、AN69膜では親水性のメタリルスルホン酸ナトリウムとの合成膜のためPVPに必要がありません。

また使用前にヘパリン添加生理食塩水でプライミングすることにより,膜表面がヘパリンコーティングされ,持続腎代替療法を行う際の抗凝固薬必要量を減少もしくは不要とする効果が期待された

AN69膜の構造の特徴
  • 含水率が高い(約60%)→生体適合性が高い
  • 強い陰性荷電を有する→吸着除去特性生体適合性の向上
  • 親水化剤(PVP)を含まない→アレルギー反応が起きにくい

AN69膜の特徴

生体適合性が高い

AN69膜は、世界で初めての合成高分子膜として開発された膜で、非常に高い親水性と陰性荷電を有しています。この膜は、炎症性サイトカインや補体活性化物質などの中分子量物質をイオン結合によって吸着することで、生体適合性を高めると言われています。

陰性荷電による吸着除去特性

AN69膜は、疎水性のアクリロニトリルと親水性のメタリルスルホン酸ナトリウムによって構成されており、高い親水性と陰性荷電を有しています。これらの特徴により、AN69膜は、炎症性サイトカインの吸着特性を持っています。サイトカインとの吸着機序は、膜のスルホネート基(陰性荷電)とサイトカインのアミノ基(陽性荷電)とのイオン結合となります。イオン結合の結合エネルギーは、極性結合や疎水性結合の5~10倍であると言われており、AN69膜は、他の膜よりも強力にサイトカインを吸着することができます。

また、陰性に荷電しているAN69膜の表面と血液の接触により血管拡張物質であるブラジキニン産生が促進され、ACE阻害薬投与患者に対する使用により血管浮腫,血圧低下などのアナフィラキシー様症状を発現した報告がある。

親水化剤を含まない

PVPを含まない透析膜のメリットは、PVP溶出による生体反応やアレルギー反応を回避できることです。
PVPは易水溶性であるため、透析膜として製品化された後も膜表面から溶出することがあります。PVPが体内に流入すると、補体活性化、抗体産生などの生体反応を引き起こす可能性があります。 PVPはアレルギーを起こす原因となることがあります。PVPに対するアレルギー反応は、透析中の急激な血圧低下や血小板減少、発熱、頭痛などの症状として現れることがあります。

AN69膜を使用するメリット

現在市販されている透析膜の中でもAN69膜は高い透析効果と生体適合性を兼ね備えた優れた透析膜です。AN69膜は、中分子物質や炎症性サイトカインなどの毒素を効率的に除去することで、透析患者の方の血液浄化をサポートします。また、AN69膜は、血液との接触による生体反応を抑制することで、血栓やアレルギーなどの合併症のリスクを低減します。これらの特徴により、AN69膜は透析患者の方の生命予後やQOLを改善する可能性があります。

ドイリー
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透析患者さんにとって、透析膜の選択は重要になります。透析膜の種類によって、透析効果や生体適合性、さらには生命予後やQOL(生活の質)に大きな影響を与えるからです。

AN69膜はこのような患者さんにおススメ!!
  • 高齢で低栄養患者さん
  • 炎症反応の強い患者さん
  • ASO(閉塞性動脈硬化症)などの末梢の血流が悪い患者さん

AN69膜の注意点

ACE阻害薬との併用禁止

AN69膜の陰性荷電が血液と接触することで、血管拡張物質であるブラジキニンの産生を促進するという問題があります。ACE阻害薬はACE(アンジオテンシン変換酵素)という酵素の働きを阻害するため、ブラジキニンの蓄積が起こります。これにより、血圧低下やアナフィラキシー様症状を引き起こす可能性があります。

ドイリー
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AN69膜の表面をポリエチレンイミンで加工したAN69ST膜では、ブラジキニンの産生を減少させるたという報告もあります。

プライミングの方法に注意が必要

積層型ダイアライザーとは、平たくて薄い板状の透析膜を数十層に重ねたダイアライザーです。血液側と透析液側が交互に重なっており、透析膜がプラスチック板に挟まれています。そのため現在主流である積層型ダイアライザーの中空糸型ダイアライザーとはプライミング方法が異なります。

ドイリー
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現在は、自動プライミング機能が備わっている透析監視装置が増えてきています。自動プライミングの設定を”積層型用”に変更する必要があります。
また、手動にプライミングする場合は膜間圧力差が上がりすぎないように注意が必要です。

プライミングボリュームが大きく、透析効率が悪い

積層型ダイアライザーは、中空糸型に比べて有効膜面積に対してのプライミングボリュームが大きくなってしまいます。

規格H12-2800H12-3400H12-4000
有効膜面積(㎡)1.041.251.53
血液充填量(ml)126142173
ml/㎡約121約114約113
規格APS-11SAAPS-13SAAPS-15SAAPS-18SAAPS-21SA
有効膜面積(㎡)1.11.31.51.82.1
血液充填量(ml)59718295112
ml/㎡約54約55約55約53約53
AN69膜の使用上の注意点
  • ACE阻害薬の使用禁止→使用する前に内服薬の確認は必須!!
  • 積層型はプライミング方法が注意が必要→自動プライミングは積層型用のプライミング設定を忘れず!!
  • プライミングボリュームが多くなる→透析開始時の血圧の変動に注意!!
  • 透析効率が悪い→血液流量を上げることで対応可能!!

AN69膜の種類

H12ヘモダイアライザー(バクスター)

1969年に開発されたAN69膜は、1972年にRP-6という名で発売されました。国内では1983年にH12ヘモダイアライザーとして薬事承認されました。H12という名前は、RP-6販売開始から12年目であることを記念して命名されました。

セプザイリス(バクスター)

セプザイリスは、持続緩徐式血液濾過器で、AN69ST膜という合成高分子膜を使用しており、 AN69ST膜は、AN69膜にポリエチレンイミンを表面処理したもので、STはSurface Treatedの略です。セプザイリスは、敗血症に対するnon─renal indicationとしての血液浄化の研究が多く行われてきたが,いずれも有効性を示すには至っていない3。セプザイリスは,治験にて重症敗血症及び敗血症性ショック患者を対象にサイトカインを吸着除去することで生存率の向上に寄与することが示され,持続緩徐式血液濾過器の特殊型として2014年より保険収載されました。

まとめ

いかがでしたでしょうか?AN69膜の特徴やメリット・デメリット、注意点などをご紹介しました。PAN膜は、透析効果や生体適合性の向上、生命予後やQOLの改善に寄与する可能性がある透析膜です。しかし、AN69膜を使用する際には、ACE阻害薬との併用禁忌やナファモスタットの吸着などのデメリットや、プライミングや開始時の手技などの注意点もあります。AN69膜を知ることで、あなたの透析治療が変わるかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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