透析患者さんにとってサルコペニア・フレイルが問題となる3つの原因

病気
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年々透析導入患者さんの平均年齢が上がってきています。
透析患者さんの高齢化に伴う問題としては…

  • 動脈硬化
  • サルコペニア・フレイル
  • 認知症
  • 社会的受け入れ

この中で今回はサルコペニア・フレイルについてご説明したいと思います。

透析患者のサルコペニア・フレイルが問題である3つの原因

  • 原因その1透析患者さんはサルコペニア・フレイルになりやすい要因がたくさんある
    →高齢化、低栄養、蛋白異化亢進、時間的制約、食事制限、骨粗鬆症
  • 原因その2透析患者さんのサルコペニア・フレイルは予後が悪い
    →合併症をが起きやすく治癒もしにくい
  • 原因その3慢性疾患という特殊な病態により精神的ストレスをかかえている
    →やる気の低下、無気力、活動量の低下

これから3つの原因を説明します。

透析患者さんのサルコペニア・フレイルの実態

50歳以上の血液透析患者の33.7%がサルコペニアである。

kim JK,et al Clin Nutr 2014

透析導入期で約80%の患者がフレイル(サルコペニア・プレサルコぺニア)を合併している。

Bao Y,et al:Arch Intern Med 2012

日本では平均70歳の透析患者で42.4%がサルコペニアを合併している。

Hotta C,Hiraki K,Shibagaki Y et al:Int J Cardiol2015

数々の論文でも透析患者さんでは身体機能・筋力が明らかに低下していることが発表されています。

サルコペニアとは

サルコペニアの定義

身体的な障害、QOL低下、死亡のような有害な転帰のリスクとなる進行性・全身性の筋肉量および筋力の低下を特徴とする症候群で、一般的には加齢に伴う筋肉量の減少を指す。透析患者さんにおいては加齢以外の原因のこともあります。

加齢による「原発性のサルコペニア」と、活動減少・栄養不足・疾患が原因のものを「二次性サルコペニア」と言います。

透析患者さんでのサルコペニアは加齢による原発性サルコペニアとCKDによる二次性サルコペニアが複合しています。

ドイリー
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最近ではサルコペニア肥満も注意が必要で、メタボでも筋肉量が減少している場合がある。

サルコペニア肥満とは、筋肉量の低下と体脂肪の増加が重なった状態のこと。

サルコペニアの診断基準

アジア人の基準であるAWGS 2014が一般的に使用されておりましたが2019年にAWGS2019に改訂されました。

AWGS2019は測定器のない一般診療所などでも評価を行えるようになりました。具体的はサルコペニアの可能性のある方を抽出し評価を行うというもので、抽出には下腿周囲長やSARC-Fを用います。評価は握力か椅子の立ち上がりテストを行いサルコペニアの評価を行います。確定診断は今まで通りDIXやBIAを用いて筋肉量の評価を必要とします。

一般の診療所や地域での評価(測定装置がない場合)

  1. 患者さんの抽出
    下肢周囲長が男性34㎝以下、女性が33㎝以下、SARC-Fが4以上、SARC-CaIFが11以上
  2. サルコペニアの評価
    握力が男性28㎏以下、女性18㎏以下or5回椅子立ち上がりテスト12秒以上

上記に当てはまった場合、サルコペニアの可能性あり、設備の整った医療施設へ紹介を検討する。

設備の整った医療施設(測定装置のある場合)

1.患者さんの抽出

  • 身体機能低下または制限、意図しない体重減少、抑うつ気分、認知機能障害、繰り返す転倒、栄養障害、慢性疾患(心不全、COPD、DM、CKDなど)
  • 下肢周囲長が男性34㎝以下、女性が33㎝以下、SARC-Fが4以上、SARC-CaIFが11以上

2.サルコペニアの診断

  1. 筋肉量の減少
    骨密度(DXA)が男性7.0㎏/㎡以下、女性が5.4㎏/㎡以下、生体電気インピーダンス法(BIA)で男性7.0㎏/㎡以下、女性が5.7㎏/㎡以下
  2. 筋力低下
    握力が男性28kg未満、女性18kg未満
  3. 身体機能の低下
    6m歩行速度が1.0m/秒以下or5回椅子の立ち上がりテストが12秒以下orSPPBが9点以下

1に加えて2または3を併せ持つ場合「サルコペニア」で、3つとも併せ持つ場合「重度サルコペニア」と診断されます。

SARC-Fとは、5つの質問で構成されたサルコペニアのスクリーニングツール
SARC-CaIFとは、SARC-Fに下腿周囲長を加えたもの
SPPBとは、バランス項目と身体機能項目で評価する簡便な運動機能評価法

フレイルとは

定義

要介護状態(身体障害)の前段階。外的ストレスに対する脆弱性が亢進し、機能障害・転倒・入院になりやすい状態のこと。

フレイルの種類

  • 社会的フレイル独居、外出頻度の低下
  • 精神心理的フレイル認知症、うつ状態
  • 身体的フレイルサルコペニア、変形性関節症、脊柱管狭窄症、骨折など
ドイリー
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フレイルは要介護の前段階であり、言い換えると適切な介入により健常に戻ることができる状態と言えます。

フレイル(診断基準)

  1. 体重減少:意図しない2~3kg以上の体重減少(6か月間)
  2. 疲労感:原因・理由のない疲労感
  3. 活動量の低下:運動等を1週間以上していない
  4. 緩慢さ(歩行速度の遅延):歩く速度が遅くなってきた(自覚)
  5. 虚弱(筋力の低下):握力(男<26kg、女<18kg)

3つ以上でフレイルと診断されます。
1~2つ該当する場合をプレフレイルと言います。

原因その1:透析患者さんはサルコペニアになりやすい要因がたくさんある

  • 高齢化
    →透析患者さんの平均年齢は年々上昇しており、2018年末時点で平均年齢は68.75歳です。加齢にともない人の筋肉量は30歳代を境に年間1~2%減少していき、80歳までに30%の筋肉量が失われると言われております。
  • 活動量の減少
    →透析患者さんの高齢化による活動量の減少に加えて、透析患者さんは週3回の通院による時間的制約があります。透析治療が終わった後は疲労感が強くて帰ってから寝てしまうっという透析患者さんも多いのではないでしょうか?また、入院などにで安静により筋肉量は1日0.5%減少し筋力は0.3~4.2%減少すると言われおります。
  • 食事制限
    →腎機能が低下すると体から老廃物が除去できなくなります。そのため透析患者さんは高リン血症を注意されることが多く、リンの多く含む蛋白質を制限してしまいます。また加齢による食事量の減少も重なり摂取蛋白質が減少してしまいます。
  • 低栄養
    →食事制限や食事量減少に加えて、透析治療による蛋白質の漏出も起こります。また透析患者さんは慢性的な炎症状態であり、炎症による蛋白質の合成低下が起こり低栄養になりやすいです。
  • 尿毒症
    →腎不全になると筋蛋白合成阻害物質であるミオスタチンの発現が多くなると言われております。
  • その他
    →インスリン抵抗性、ビタミンD活性化低下、代謝性アシドーシス、味覚の低下、PADによる歩行減少など

このように透析患者さんでは、様々な要因により筋肉量が減少しやすい病態だと言えます。

低栄養や尿毒症の判断には血液検査からも判断できます。透析治療で用いられる指標はこちらの記事を参考にしてください。

原因その2:サルコペニア・フレイルだと予後が悪い

透析導入期の6割の患者さんで筋力もしくは筋肉量が低下してる。さらに2割の患者さんはどちらも低下している(サルコペニア)。また、このサルコペニアの患者さんは予後が悪い。

Clin J Am Soc Nephrol 9:1720,2014

透析患者さんと生命予後と筋肉量は密接に関係しております。

原因その3:腎不全(慢性疾患)の精神状態

透析患者さんは、透析治療を続けていく中で心に大きな負担をかかえています。治療や日常生活に対する不安やストレスにより抑うつ症状を訴える患者さんは多くいます。

抑うつ症状のある透析患者さんは、不眠、食欲低下、興味関心の低下が起こりやすく、活動量の低下になりやすいです。その為、筋肉量の低下につながりやすいと言えるのではないでしょうか。

透析患者さんの精神状態の特徴などはこちらの記事を参考にしてください。

透析患者のサルコペニア・フレイル対策

透析患者さんは様々な要因によってサルコペニア・フレイルが発症するため、多面的な介入を要する

  • 腎疾患の管理
  • 栄養管理
  • 精神心理面への対応
  • 身体機能低下への対応
  • 薬物介入

腎疾患の管理

透析効率の見直し、治療法の変更、ミネラルバランスの調整

栄養管理

食事指導による蛋白質摂取量の見直し

ドイリー
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口から摂取した栄養素の方が体内で吸収されやすいため、なるべく経口摂取できるようにする。経口摂取が難しい場合は透析中のアミノ酸製剤なども考慮する。

精神心理面への対応

カウンセリング、メンタルケア外来の受診

身体機能低下への対応

週3~5日のウォーキング等の有酸素運動
透析中のエルゴメーターによる有酸素運動
チューブを使用したレジスタンス運動

持久性トレーニング(有酸素運動)は予測最高心拍数(208-年齢×0.7)の75%程度までで、30~60分/週3~5日行う。

ドイリー
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極度な栄養不良の状態(飢餓状態)でのトレーニングは必要なエネルギー量の増加から、かえって栄養状態を悪化させるため、エネルギー必要量を満たす栄養管理をまずは行う。

薬物介入

  • 必須アミノ酸の投与
    特にロイシンはタンパク同化作用が強い。しかし高齢者ではロイシンのタンパク同化作用が低下しているため、低濃度のアミノ酸だとタンパク同化作用が働かない場合があるので注意が必要です。
  • L-カルニチンの投与
    筋肉量の増加、透析患者さんは低カルニチン血症のことが多い。
  • ホルモン補充療法
    テストステロン→脂肪量の減少と筋肉量の増加
    成長ホルモン→脂肪量の減少と筋肉量の増加を認めるものの、体液量の増加や糖尿病のリスクが増大するとの報告があります。
  • ビタミンD
    ビタミンDはアミノ酸の分解抑制し筋委縮を抑制する効果がある。歩行速度・運動機能改善、転倒のリスク低下に関与すると報告があります。
  • 交感神経ベータ2受容体活性化薬
    もともとは喘息やCOPDの治療薬ですが、筋肉量の増加や脂肪量の減少効果が認められている。

まとめ

このように透析患者さんはサルコペニア・フレイルになりやすいと言えます。透析室スタッフとしては週3回通院に来てくれる・毎月定期的に検査を行っている透析患者さんの異変に気付きやすいと思います。
透析室スタッフは、患者さんの異変にいち早く気づき適切な介入を行うことでサルコペニア・フレイルは予防できると思います。

今回の記事は以上となります。最後までお読みいただきありがとうございます。

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