意外と見落としがちな、透析患者さんの心嚢水

病気
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心嚢水って何?
心嚢水ってなにがいけないの?

透析患者の死因の第一位は心不全です。心不全とは、心臓が十分な量の血液を送り出せなくなった状態のことで、透析患者さんの心不全での死亡率は健常者の心不全のなんと46倍というデータもあります。

透析患者さんの心不全の原因としてあげられるのが、腎機能の低下により体液が貯留し心負荷が起こり心不全になったり、動脈硬化などのにより心筋梗塞を起こし心不全になったりと原因は様々ありますが、今回はその中でも心嚢水についてとりあげたいと思います。

透析患者さんの心嚢水のポイント

  • 透析患者さんは心嚢水が貯留しやすい
    • 透析患者さんは心嚢水貯留が起こる要因が多く、無症状なものが多いため気づきにくい
    • 導入期の時点で心嚢水が貯留していることが多い。
  • 透析患者さんの心嚢水貯留が起こる原因
    • 尿毒症性心膜炎による心嚢水貯留
      • 透析患者さんでは尿毒症性心膜炎による心嚢水貯留がみられ、治療には透析効率の強化が言われています。
    • 高血圧・体液過剰・高心拍出量による心嚢水貯留
      • 心負荷の増大が原因
    • 低栄養・慢性炎症による心嚢水貯留

心嚢水貯留の頻度

血液透析を受けている150人の患者からなる研究では、62%で心嚢液貯留が検出されましたが、心電図または心膜炎の臨床的兆候を示したのはわずか7.3%でした。

Dad T, Sarnak MJ. Pericarditis and Pericardial Effusions in End-Stage Renal Disease. Semin Dial. 2016 Sep;29(5):366-73. doi: 10.1111/sdi.12517. Epub 2016 May 26. PMID: 27228946.
ドイリー
ドイリー

この論文でも言っていますが、透析患者さんでは症状が出ない無症候性心嚢水が多いです。低血圧を伴う持続性または進行性の右心不全は、心タンポナーデを示唆していることに注意することが重要です。

心臓の構造

  • 心臓の周りを覆っている伸び縮みできる2枚の膜で作られる袋を心嚢といいます。
  • 心嚢には、心臓のスムーズな可動と感染症から守るために、少量(50ミリリットル)の潤滑液が入っています。この潤滑液が心嚢液です。

心嚢水と心不全の関係心

心嚢水と心不全の関係は以下のようになります。

  1. 心嚢内にたまった液が心臓を圧迫
  2. 圧迫によって心臓が完全に拡張できずに、
  3. 心臓内に血液を満たせない(静脈圧上昇)
  4. 満たせない状態で心臓が送り出すので、血液量が減少(血圧低下)
  5. 組織への酸素供給量が低下

心嚢内に溜まった液によって心臓が圧迫され、血液を送り出す心臓のポンプ機能が阻害されます。
これを”心タンポナーデ”と言います

ドイリー
ドイリー

心タンポナーデは、透析性心膜炎の患者の20%で発生します。透析関連低血圧は、タンポナーデまたはプレタンポナーデの患者の60%で発生しますが、そうでない患者では6%です。

心嚢水貯留の原因

透析患者さんは高血圧・高心拍出量・体液過剰が心負荷の原因になり、また慢性炎症は心嚢液の透過性を助長させ、低栄養・尿毒症性心膜炎などの透析患者さんの特有の状態により心嚢水が貯留します。

尿毒症性心膜炎

尿毒症性心膜炎とは、血液透析と腹膜透析を受けている患者さんで起こしやすいと言われています。不十分な透析が尿毒症性心膜炎に繋がります。尿毒症性心膜炎は、導入期直後の慢性腎不全とBUN60mg/dl以上で起こりやすくなると言われております。

これらの原因としては、尿毒素性代謝産物の蓄積や電解質の異常などがあります。

ドイリー
ドイリー

これらの尿毒症性代謝産物の蓄積によって心膜に損傷を与えて、IL-1・IL-6・TNF細胞などの炎症誘発マーカーを放出して、炎症や線維性沈着し、さらなる心膜の損傷を引き起こします。

治療

透析効率のアップは、心嚢水が貯留している患者さんの50%以上に効果的であると言われています。

高血圧・体液過剰・高心拍出量

透析患者さんは、腎機能が低下しており体液過剰になりやすく、また皆さんもご存じの通り、腎機能が低下すると、エリスロポエチン産生低下をきたし、貧血になる為、細胞内に酸素供給を行うため高心拍出量になり、また、シャント作成により高心拍出量を助長しやすいです。
体液過剰や高心拍出量により高血圧になりやすく、その結果、心臓の負荷が増大しやすくなります。

以上のことから、透析患者は、高血圧・体液過剰・高心拍出量になりやすいです。

慢性炎症及び低栄養

透析患者さんの35%がCRP0.2以上といわれており、透析治療によって慢性的な微細炎症を起こしております。

主な原因としましては、尿毒症による摂食障害や高齢化による食事量低下や透析技術の向上により栄養素の漏出が増え、低栄養状態になりやすく、さらに透析患者は週3回透析を行い、透析膜などの接触により、サイトカイン放出や白血球の減少などが起こり、慢性的な炎症症状や免疫力低下になりやすくなっています。

当院での心エコーの結果

最後に当院で行った心エコーによる心嚢水の結果を参考にしてください。

心エコーで5mm以上のフリースペースがある状態を心嚢液あり群、4.9mm以下の状態を心嚢液ない群として比較を行いました。

   患者背景      心嚢水なし      心嚢水あり      P値   
BMI22.6±3.620.9±4.50.022
DW(kg)58.7±12.154.7±14.00.104
GNRI99.4±9.294.2±9.90.00507
Kt/Vsp1.52±0.311.52±0.270.856
nPCR0.85±0.180.79±0.180.0579
%CGR112.8±31.293.7±28.90.001111
CTR49.8±5.351.8±4.80.0416
呼気IVC(mm)15.8±3.015.6±3.50.935
年齢(歳)70.3±12.070.3±11.80.895
透析歴(月)81.2±73.678.2±66.60.893
心嚢水あり、心嚢水なしの患者背景の比較
  心エコー結果     心嚢水なし      心嚢水あり      P値   
EF(%)65.1±5.864.9±9.10.357
DCT(msec)199.9±51.9213.1±52.50.0988
LAD(mm)38.9±6.339.7±7.30.552
E/A0.99±0.440.97±0.230.475
心嚢水あり、心嚢水なしの心機能の比較
   採血結果      心嚢水なし      心嚢水あり      P値   
Hb11.0±1.111.1±1.00.8
BUN59.7±14.453.6±14.80.0214
Cr9.8±2.98.1±2.70.00472
K4.7±0.74.6±0.90.786
UA6.3±1.46.3±1.40.732
補正Ca8.8±0.68.9±0.60.45
Alb3.8±0.33.7±0.30.0313
W-PTH92.4±60.5134.4±88.90.00464
HANP91.9±88.499.4±58.50.067
心嚢水あり・なし群での採決結果の比較

結果からの見解

  • 心嚢水なし群と心嚢水あり群でKt/Vに有意差はありませんでした。
    • 現在、透析技術の発展により高性能の透析器の開発、またHDFが主流となっており尿毒症による心膜炎が減少しているのではないかと考えれます。
  • 心嚢水ない群と心嚢水あり群で心エコー結果に有意差はありませんでした。
    • 無症候性(症状がでない)心嚢水貯留が多いため、心機能に差が出ないのではないかと思われます。
  • 心嚢水なし群と心嚢水あり群で、栄養指標で有意差がありました。
    • 高齢化・長期化が進む現在の日本の透析では低栄養・慢性炎症による心嚢水貯留が起こるのではないかと考えられます。

まとめ

透析患者さんの心嚢水は多くの患者さんで見られる合併症の一つだと言えます。しかし、ゆっくり溜まる心嚢水は症状が出にくいことが特徴です。

以前は、尿毒症心膜炎による心嚢水貯留が多かったようですが、透析技術の向上により現在は尿毒症より低栄養や慢性炎症による心嚢水貯留が多いのではと思われます。

今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。

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