CKD-MBDって複雑でよくわからない。
CKD-MBDの管理ってなにをすればいいの?
透析患者さんの合併症で、もっと頻度の高いものがCKD-MBDです。しかし、その病態は複雑でその仕組みを理解するのが難しい病気でもあります。
そんなCKD-MBDをわかりやすく説明した記事になります。
CKD-MBDとは
CKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)のMBD(Mineral and Bone Disorder:ミネラルと骨の障害)のことで、骨や心血管の異常を呈するに至りうる慢性腎臓病に伴う全身性のミネラル代謝異常と定義される疾患です。
骨やミネラルの障害は、動脈石灰化などを引き起こし、透析患者さんの生命予後に大きく関係します。
- CKD-MBDに含まれる主な疾患
- 高Ca血症、低Ca血症
- 副甲状腺機能亢進症、比較的副甲状腺機能低下症
- 高P血症
- 血管石灰化、うっ血性心不全
- 繊維性骨炎、骨軟化症、無形性骨
- CKD-MBDに入らない骨障害
- 成長障害
- 骨減少症
- アミロイド骨症
- 尿毒症性骨粗鬆症
CKD-MBDに入らない骨障害はミネラル代謝異常が原因で起こる骨障害ではないためCKD-MBDには含まれません。
同じ骨代謝障害でもCKD-MBDとそれ以外では、治療方法が違うためCKD-MBDとは分けて考えることが大切になります。
カルシウム・リン代謝のフィードバック機構
全身のカルシウム・リン代謝は一つの臓器だけでなく複数の臓器のフィードバックでコントロールされている一つの大きなネットワークのようなものと考えられます。
カルシウム・リン代謝を行う主な臓器
腎臓
- Ca・Pを排泄、または再吸収を行う。
- 活性化ビタミンD産生させ腸からのカルシウムの吸収を促進させる。
副甲状腺
- PTH分泌し骨吸収を促進させCaを上げる。
骨
- Caをストックするスペース。体内のカルシウムが不足すると骨からカルシウムを補充する。
慢性腎臓病ではこのカルシウム・リンの排泄機能と活性化ビタミンDの産生機能が働かずにカルシウム・リン代謝がうまくいかなくなります。また腎臓がうまく働かなくなることで、副甲状腺や骨のカルシウムリン代謝もうまくいかなくなり、2つの臓器が働かくなったり逆に暴走することもあります。
このようにカルシウム・リン代謝ネットワークがうまく機能しなくなったことによる腎臓以外の症状の総省がCKD-MBDです。
体内におけるリンの代謝
口から摂取したリンの3分2以上は腸から吸収されて、体内に取り込まれます。とくに添加物に含まれる無機リンは吸収効率は90%以上になります。食べ物に不自由のない現在は、摂取するリンの量が多いため、吸収効率の良いリンは大量に尿中に排泄しなくてはならなくなります。すなわち大量吸収・大量排泄がリン代謝の基本的システムとなります。
透析患者さんに加工食品を控えてもらうのは、加工食品に含まれる無機リンによって、リン値が高くなりやすいためです。
透析患者さんでは、リン排泄がうまく機能しないため透析治療でリンを除去しますが、それでも除去量には限界があるため吸収量を少なくする必要があります。
吸収量を少なくするためには、食事によるリンの摂取制限やリン吸着薬の服用によるリンの吸収量を下げる必要があります。
1回4時間の透析治療では約1000㎎のリンを除去することが限界になります。
リン代謝機能をふまえての異常値の対処法
- 高リン血症
- 高リン血症治療薬によりリンの腸管でのリンの吸収を抑える
- 低リン血症
- 高リン食を摂取する
透析患者さんの高リン血症の説明はこちら↓
体内におけるカルシウムの代謝
カルシウムはリンより食事による摂取量が少なく、また吸収効率も悪く摂取したカルシウムの4分の1も吸収されません(バイオアベイラビリティが悪い)。そのかわりカルシウムのストックスペースである骨とのやり取りは活発に行われ、少量吸収・少量排泄、再利用がカルシウム代謝の基本システムです。カルシウム代謝にとって再利用がとても重要になり、再利用はカルシウムのストックスペースである骨のリモデリングに大きく依存します。
バイオアベイラビリティとは、摂取した薬などが、どれだけ全身の血液中に到達し作用するかの指標となります。
カルシウムは腸での吸収率が低いため、摂取した割に血液中のカルシウム濃度が上がらないため、バイオアベイラビリティが悪いと言えます。
骨のリモデリング
骨による血液中のカルシウムの調節を行う。
骨を溶かして血液中のカルシウム濃度を上げる(骨吸収)。骨を作ることによって血液中のカルシウムを下げる(骨形成)。骨吸収と骨形成を繰り返すことで血液中のカルシウム濃度を調節します。
- PTHの刺激により、破骨細胞によって骨を溶かして血液中にCaを供給する。この時急速に血液中のCa濃度は上がる。
- ある程度骨を溶かすと、今度は骨芽細胞によって骨を作る。この時血液中のCa濃度はゆっくり下がる
- 1~2を繰り返す
骨吸収の期間は短く(2週間くらい)、骨形成の期間は長い(6か月くらい)。骨吸収で血液中に補充されたカルシウムの量と、骨形成を使われたカルシウムの量は同じになります。
この骨吸収と骨形成のバランスが崩れることで、様々な骨代謝疾患が起こります。
例えば、骨形成より骨吸収が上回るると骨粗鬆症など骨が脆くなる病気になります。
カルシウム代謝機能をふまえての異常値の対処法
- 高カルシウム血症
- 骨吸収抑制薬
- 低カルシウム血症
- 消化管Ca吸収効率改善薬
カルシウム代謝における副甲状腺の機能
副甲状腺は血液中のカルシウム濃度を維持するコントロールセンターの役割をします。
副甲状腺は、カルシウム感知受容体で血液中のカルシウム濃度を感知してカルシウム濃度が低ければPTH(副甲状腺ホルモン)を分泌して骨のリモデリングを促進させカルシウム濃度を上げます。血液中のカルシウム濃度が上がると、カルシウム受容体が感知してPTHの分泌が抑え、今度は骨吸収によって血液中のカルシウムはゆっくり下がっていきます。
二次性副甲状腺機能亢進症
二次性副甲状腺機能亢進症は副甲状腺そのものが原因ではなく、慢性腎臓病やビタミンD欠乏症などによって二次的に副甲状腺ホルモン(PTH)が多く分泌される病態のこと。
長期間、刺激され大量のPTHを分泌し続けた副甲状腺は次第に肥大していき、やがて血液中のカルシウム濃度に関係なくPTHを分泌するようになってきます。
二次性副甲状腺機能亢進症の治療
治療法としては、血液中のカルシウム濃度を上げることでPTHの分泌を抑える、またはカルシウム受容体作動薬により疑似的にカルシウム濃度が上がったと感知させます。それでもコントロールが難しい場合は副甲状腺自体を摘出する手術が行われます。
- カルシウム製剤(沈降炭酸カルシウム)
- カルシウムを補充することで血液中のカルシウム濃度を上げて、PTHを抑える
- ビタミンD製剤(マキサカルシトール、カルシトリオール)
- 活性型ビタミンDを補充し、腸管からのカルシウム吸収を促進、カルシウム濃度を上げてPTHを抑える
- カルシウム受容体作動薬(エボカルセト、エテルカルセチド塩酸塩)
- 副甲状腺のカルシウム受容体に直接作用しPTHを抑える
- 副甲状腺摘出術
- 過剰に分泌する副甲状腺を取ってしまう
カルシウム受容体作動薬は、直接副甲状腺に作用しPTHの分泌を抑えるため、低カルシウム血症に注意が必要です。
カルシウム代謝における活性型ビタミンDの機能
腸管でのCaの吸収促進
しかし、PTHに比べると作用が弱いですが、長期間ビタミンD不足になると低カルシウム血症になります。
CKD-MBDの管理
CKD-MBDの管理は、基本的にはP(リン)、Ca(カルシウム)、PTH(副甲状腺ホルモン)の管理が中心となります。
目標値
- P:3.5~6.0㎎/dl
- Ca:8.4~10.0㎎/dl(Albが4.0g/dl以下の場合は補正Ca値を用いる)
- 補正Ca 濃度=Ca 濃度+(4−Alb濃度)[Payne の補正式]
- PTH:intactPTHで60~240pg/ml、wholePTHで35~150pg/ml
- P→Ca→PTHの順に優先して管理目標値内に維持をする。
リン(P)、カルシウム(Ca)の管理は、この9分割図の真ん中に入るようにコントロールすることが望ましいとされています。
この9分割図は透析患者さんの死亡リスクに焦点をあてて作成されたものです。
しかし、この9分割図の中心にCa・Pをコントロールすることだけが本当にいいのでしょうか?
9分割図における骨折のリスク
こちらの図が2009年末透析医学会の透析調査の報告で、ガイドラインの9分割図ごとの骨折のリスクをまとめたものです。
この図をみるとカルシウムが高いほうが骨折のリスクが下がります。またリンも高いほうが骨折のリスクは減るように見えます。
「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」は、”こうすれば透析患者さんが長生きできる”っということを元に作られたもので、死亡リスクだけをみれば高カルシウムは死亡リスクをあげるだけかもしれません。しかし、骨折のリスクだけを考えればカルシウムが高いことはリスクを下げることになります。
患者さんの生活の質(QOL)を考えたときに、長生きすることを望むのか、骨折しないことを望むのか、われわれ医療従事者にとって、”透析患者さんにとっての最良の治療とは何か”を目指すことが一番だと思います。
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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