透析患者さんは食事制限があるし、どのように患者さんに説明したら良いかわからない…
透析患者さんにとって食事制限はもっと身近でもっとも大切なことだと思います。毎日の食事に気を使い、大変な思いをしている透析患者さんも多いのではないでしょうか?また、そんな患者さんに食事指導をする透析室スタッフも、どのように説明したらいいのか悩むことが多いと思います。
この記事では、透析患者さんの食事に対するアセスメントの方法をご紹介します。
食事制限のある透析患者さんにとって制限するだけではダメ!!
食事を制限することによって、必要なエネルギーやたんぱく質が取れないと低栄養・サルコペニア・フレイルになる恐れがあります。
透析患者さんの食事療法の基本
- 塩分水分制限:体重、血圧の管理
- 適正なエネルギー摂取:栄養状態の維持、PEW発症の予防
- 適正な蛋白質摂取:栄養状態の維持、PEWの予防、サルコペニアの予防、ミネラル管理
- ミネラル管理:合併症の予防
ひとつだけでなくすべてが円滑に管理することが透析患者の安定した生活につながります。
透析患者さんにとって食事制限はサルコペニア・フレイルの要因になる
透析患者さんはサルコペニア・フレイルになる要因がたくさんある。そのひとつに食事制限があげられます。
透析患者さんにとってサルコペニア・フレイルが問題となる3つの原因
栄養ケア・マネジメントを行う際の手順
透析患者さんの栄養状態を把握するの手順は以下のようになります。
- 栄養スクリーニング
- 栄養アセスメント(栄養状態の評価)
- 栄養ケア計画
- 栄養介入
- モニタリング→経過不良の場合、栄養アセスメントへ戻る
- 評価
栄養アセスメント(栄養状態の評価)
栄養アセスメントは”一時点の評価”と”経時的(継続的)変化を評価”場合の2パターンがあります。
- 一時点の栄養評価
ガイドラインの基準値や平均値などと比較して行い、転入時や初回栄養指導時に行います。 - 経時的(継続的)変化の評価
患者さんの変化を評価し、前回や3か月前、半年間、1年前などど比較して行います。
透析患者さんは、慢性疾患のため継続的な評価が重要になります。
アセスメント項目
- アセスメントツール(SGA、MIS)
- DW、DWの経時的変化
- 食事摂取状況、食事摂取量、食欲
→エネルギー摂取量の評価 - 採血結果
- 身体計測値(筋肉量、体脂肪量)
→上腕周囲長、下腿周囲長、上腕三頭筋皮下脂肪厚など - 問診(本人、家族、介助者)
→家族背景、食生活、活動状況、口腔内・嚥下の状態、消化器官の状態、合併症や服薬状況
これらの項目を総合的に評価することが栄養アセスメントになります。
食事摂取状況・摂取量を評価するための食事調査
なぜ食事調査を行うのか?
- 食事調査はエネルギーや栄養素の摂取量を推定
- 食品の種類や量・偏り・栄養素のバランスの把握
- 食習慣や食環境、食生活のパターンの把握
食事調査の方法
- 食事記録法
- 24時間思い出し法
- 食物摂取頻度法
- 陰膳(かげぜん)法
- 写真撮影法
個々の患者さんに合った調査を選択し、1日だけではなく数日間・数か月間の平均的な摂取量で評価することが大切です。
食事記録法
患者さんや介助者が1日に摂取した食品を記録する方法
長所:記憶に依存しない
短所:負担が大きい、記入漏れや量の誤り
正しく計量し記入漏れが少ないほど、より正確に摂取量を把握できます。
ただ、その分記入者の負担が増えます。
24時間思い出し法
前日の食事内容を患者さんに思い出してもらいながら聞き取る
長所:負担が少ない、初回時でも行える、記録が困難な患者さんにも可能
短所:記憶に依存する
高齢な患者さんなど記入が難しい場合に適していますが、聞き取り方法などによっても大きく影響されます。
食事摂取頻度法
質問票によって、習慣的な摂取量を推定する。
長所:標準化できる、短時間でできる。
短所:質問項目や選択肢に結果が依存する、具体的な摂取量はわからない
陰膳(かげぜん)法
食事したものと同じものを持ってきてもらう
長所:記憶に依存しない
短所:負担が大きい、手間と費用がかかる
写真撮影法
摂取した食事を写真撮影する
長所:カメラが使える人には簡単に記録が残せる、食生活の把握が可能
短所:正確な量が把握できない
栄養アセスメントをする際の注意点
エネルギー及び栄養素の摂取量の推定は、習慣的なもの出ることが前提にしています。そのため、得られた食事摂取量の結果を評価する場合に、注意が必要です。
日間変動
日本の女性栄養士80名において7日間連続で食事調査をした結果、エネルギーや栄養素の変動は大きく、誤差を10%以内にするためにはエネルギーの推定で10~35日間必要とされています。
Tokudome Y, Imaeda N, Nagaya T, Ikeda M, Fujiwara N, Sato J, Kuriki K, Kikuchi S, Maki S, Tokudome S. Daily, weekly, seasonal, within- and between-individual variation in nutrient intake according to four season consecutive 7 day weighed diet records in Japanese female dietitians. J Epidemiol. 2002 Mar;12(2):85-92. doi: 10.2188/jea.12.85. PMID: 12033533.
食事は常に一定ではないため、数日間の平均で評価することが大切です。
季節変動
エネルギーや水分、カリウムなどは季節による摂取食品や料理に大きく左右されます。また、摂取内容も季節による旬なもの・地域による特産物・個々の嗜好によっても変動します。
過小評価・過大評価
24時間思い出し法による食事摂取調査を6回行いエネルギー摂取量の平均を調べた研究によると、過少報告が65%でみられ、女性、太りすぎ、食事の回数が少ない、透析歴が短い透析患者さんに過少報告がみられたと報告しております。
Vaz IM, Freitas AT, Peixoto Mdo R, Ferraz SF, Campos MI. Is energy intake underreported in hemodialysis patients? J Bras Nefrol. 2015 Jul-Sep;37(3):359-66. English, Portuguese. doi: 10.5935/0101-2800.20150056. PMID: 26398646.
透析患者さんは、厳しい食事制限を言われることが多いため食事内容を言わなかったり、また患者さん自身が忘れていたりして、過小評価されることがあります。患者さんから食事内容を聞き出すテクニックも必要なります。
エネルギー摂取量と栄養素摂取量の関係
食事記録などから求めたエネルギー摂取量と、患者さんのエネルギー必要量を比較することが必要になります
- エネルギー摂取量=エネルギー必要量→体重の変化なし
- エネルギー摂取量>エネルギー必要量→肥満
- エネルギー摂取量<エネルギー必要量→痩せ
ガイドラインを目安にして患者さん個々のエネルギー必要量を求めますが、患者さんの年齢や活動度、栄養状態を考慮して個別に調整が必要です。
まとめ
- 慢性疾患である透析患者さんには経時的継続的な評価が重要。
- 食事調査は、個々の患者さんに合わせて調査法を選択・組み合わせて実施する。
- エネルギー摂取量の評価には、透析患者さんのエネルギー必要量を定期的に評価する。
- エネルギー必要量は、体重(DW)の変化や栄養状態、身体活動量、ADLなどを評価し検討する。
- エネルギーの増減は体重の増減に影響する。
- エネルギー摂取量の評価にはエネルギー摂取源も評価する。
- 食事摂取量や食欲の低下がみられた場合、エネルギー摂取量も低下していると考え、早期に介入する。
- 多職種での情報共有が大切である。
大切なことは、透析患者さんに食事制限を強いるだけでなく、摂取することの大切さも合わせて説明していただき、患者さんに理解してもらうことだと思います。
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
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