透析液ってどうやって作られているの?
透析治療において欠かせないものの一つに”透析液”があります。朝、治療の準備をするときにボタンを押すと流れてくる透析液がどこでどのように作られているかご存知ですか?
透析液は、機械室(透析室とは別の部屋)で作くられていることが多く、透析液を作るところを見たことがない看護師さんも多いのではないでしょうか?
今回の記事では、透析治療に欠かせない透析液ができるまでをご紹介します。
透析治療における透析液の役割
透析治療では、腎機能が低下することで体の中に溜まった老廃物を除去しなければなりません。透析治療では老廃物を除去する方法として、「拡散」という原理を使います。
拡散
物質の濃度差を利用した物質の移動のことで、煙が空中で広がったり、入浴剤がお風呂の中で広がることも拡散です。
この拡散の原理を利用して血液中にある老廃物を除去するには、血液を透析膜を介して透析液と接触させることで老廃物を透析液の方に移動させて、老廃物の入った透析液ごと捨てることで体内の老廃物を除去します。
透析液ができるまで【原水から透析器に流れるまで】
水道水→RO装置→A・B溶解装置→透析液供給装置→透析監視装置
- RO装置
水道水や井戸水から透析液を作る為の水(透析用水)を作る - A粉末溶解装置・B粉末溶解装置
粉末状の透析液を溶かして、透析液の原液を作る - 透析液供給装置
一定の割合でA原液とB原液と透析用水を混ぜ合わせ透析液を作る。作った透析液を透析室へ送る - 透析監視装置
送られてきた透析液を設定した透析液流量に合わせてダイアライザーへ送る
透析液に使う水は、多くの透析施設では水道水を使用します。RO装置で水道水を浄化し透析用水を作ります。
透析用水を使って透析液の元となるA原液(粉末)とB原液(粉末)をとかして透析液の原液を作ります。
溶解装置で作った透析液の原液を供給装置で決まった配合で混ぜ合わせ、透析液を作ります。
供給装置で混ぜ合わせた透析液は機械室から透析室に送られ、各透析監視装置を経由して透析器に供給されます。
透析器に供給される透析液は1分間当たり500mlが一般的で、一回の治療が4時間の患者さんで使用される透析液の量は500ml×60分×4時間で120Lになります。
40人の患者さんを同時に治療しようと思うと120L×40人で4800Lの透析液を使用することなります。
一般的な家庭用のお風呂では1回に200Lの水を使用しますので、40人を治療するためにはお風呂24杯以上の透析液を使用することになります。
1.RO装置
現在、多くに施設で透析用水は水道水から作られます。2017年に日本透析医学会学術委員会血液浄化療法の機能・効率に関する小委員会・ISO 対策ワーキンググループから発表された透析用原水に関する調査報告によると86.2%の施設で水道水を使用しており、7.9%が地下水、5.9%が水道水と地下水のブレンドで使用しています。
原水(水道水や地下水)から、透析液を作るための水(透析用水)を作る装置がRO装置になります。
RO装置とは
原水に含まれる、微量な金属物質や発熱物質を除去し、体に入っても安全な水を作る装置です。
原水は水道法にのっとって管理が必要になります。原水に水道水を使用すれば、水道局が水質を管理をしているため、管理不要になります(実際には年1回の化学汚染物質の確認と水道局が管理している水質検査の結果の確認が必要です)。
RO装置の構造
標準的なRO装置の構造
- プレフィルタ
- 軟水化装置
- 活性炭ろ過装置
- ROユニット
- RO水タンク(紫外線殺菌灯)
プレフィルタ
原水の中の砂や配管のさびをや活性炭ろ過装置から出る活性炭の粒子などの粗い粒子を取り除く役割です。粗い粒子がプレフィルタ後の装置が目詰まりや故障の原因になるためです。
軟水化装置
原水中に含まれる硬度成分(カルシウムやマグネシウム)が膜の目詰まりの原因になるため、カルシウムやマグネシウムをナトリウムに交換する働きがあります。
RO膜の性能の保持(維持)が目的です。
水の軟水・硬水は水1Lあたりに含まれるマグネシウムやカルシウムの量で決まります。日本は軟水(水道水に含まれる硬度成分が少ない)が多いですが、それでも水道水中に含まれるマグネシウムやカルシウムを除去して軟水化しなければなりません。
マグネシウムやカルシウムを塩(塩化ナトリウム)と交換するため、塩の補充は欠かせません。また、軟水化装置のかわりにナノフィルターを使ってマグネシウムやカルシウムを除去する装置もあります。
軟水化できているかを確認する軟水化指示薬はこちら↓
活性炭ろ過装置
活性炭ろ過装置は原水中に含まれる塩素を取り除く役目です。塩素は水道水の消毒のために一定濃度以上はいっていないといけないものですが、RO膜や人体に直接入ると有害なため、RO装置で除去を行います。
原水の総塩素が1mg/L以上と高い場合は活性炭を2段にするなどの対策が必要です。
2016年に改訂された透析液水質基準では、透析用水の中に含まれる塩素は遊離塩素と結合塩素を合わせた総塩素で測ることになっています。
1.塩素濃度測定は総残留塩素(遊離塩素と結合塩素(クロラミン)の合計)測定を推奨する.
2016年版 透析液水質基準,透析会誌 49(11):697~725,2016
2.総残留塩素(総塩素)は 0.1 mg/L 未満
逆に、水道法では水道水の塩素濃度が0.1mg/L以上を保たなければならいと決められています。
活性感ろ過装置出口の総塩素濃度が高い場合は、原水の総塩素濃度も測定が必要になります。
透析用水に含まれる総塩素を測定するにはこちら↓
ROユニット
逆浸透の原理を使って、原水中に含まれるイオンの90%以上と有機物やバクテリアをほぼ完全に除去できます。
逆浸透とは
浸透圧以上の圧力をかけて、水道水から不純物を取り除くこと。
RO水に不純物が多いと電気が流れやすく、電気伝導度が高くなります。
ROタンク(紫外線殺菌灯)
ROユニットから出たRO水を貯めておくタンクで、活性炭ろ過装置で塩素を除去しているため細菌が繁殖を抑えるために紫外線殺菌灯が必須です。254nmの波長の紫外線をタンク内に照射して殺菌を行います。
紫外線殺菌灯の寿命は約1年で、寿命末期になると紫外線量が20~40%低下するため、適切なタイミングでの交換が必須となります。
2.A粉末溶解装置・B粉末溶解装置
透析液の原液を作る機械、粉末状の透析液を透析用水で溶かして透析液の原液を作ります。
3.透析液供給装置
溶解装置で作った透析液のA・B原液と透析用水を混ぜ合わせて透析液を作り、透析室(透析監視装置)へ透析液を送ります。
透析液の濃度は電導度・浸透圧・実濃度を測定するなどの方法をとります。
4.透析監視装置
透析治療をコントロールする機械。除水コントロール・透析液流量などの機能があります。
- 治療を管理する機能
- 除水コントローラー
- 血液・補液ポンプ
- 透析液の流量制御機能
- 治療を監視する機能
- 静脈圧・透析液圧モニター機能
- 気泡検知機能
- 透析液濃度監視
- 透析液温度監視
- 漏血検知器
- その他
- 透析液の加温機能
- シリンジポンプ
まとめ
今回は透析液が出来るまでの流れと、それを管理する臨床工学技士の日常業務をご紹介しました。
臨床工学技士は、透析液を作成する機器だけでなく、透析液の濃度・水質を管理しています。患者さんが安心して透析治療が行えるように臨床工学技士の業務をご理解していただけたら幸いです。
透析液の水質管理の記事はこちら
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
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