最近、よく眠れない…
すぐに目が覚めて日中に眠くなる…
透析室で働いていると、透析中に寝ている患者さんは多いのではないでしょうか?話を聞くと夜寝れなかったり、夜中に起きてしまっていることが原因かもしれません。
実際、透析患者さんは睡眠障害に悩まされることが多いです。質の良い睡眠がとれないと疲労感がとれなかったり昼間の眠気につながり、転倒のリスクさらには死亡リスクの上昇につながります。
睡眠とは主観的な評価となりますので、客観的評価が難しく、原因も人それぞれになります。
この記事では、透析患者さんの睡眠障害の悩みを理解し・原因を突き止め、透析患者さんの睡眠の質の改善、さらにはQOLの向上に役立てていただきたいと思います。
透析患者の睡眠障害について
睡眠と死亡リスクの関係は4時間未満の短時間睡眠と10時間以上の長時間睡眠で高くなります。短時間睡眠で転倒リスクが上昇し、高齢者では長時間睡眠も転倒のリスク因子になります。
また、高齢になるにつれて必要な睡眠時間は短くなりますが睡眠欲求は増加していき、実際に臥床している時間と眠れている時間に剥離が生じます。
必要な睡眠時間は、子供では10時間以上、成人では7時間程度、高齢者では5~6時間程度と言われています。そのため高齢者では寝ているつもりでも実際は寝れていないことが多くなります。
透析患者さんの睡眠の特徴
- 不眠有病率が高く総睡眠時間も減少している。
- 睡眠効率の低下や中途覚醒が多発している。
- 浅い睡眠が増加し、深い睡眠とREM睡眠が減少する。
- 睡眠周期が不規則化している。
透析患者さんの高齢化が進み、高齢や腎不全による合併症(痛み、イライラ症候群、痒み)によって透析患者さんの不眠の割合は高く、また睡眠時間も短い傾向にあります。
透析患者さんは腎不全による体液貯留による上気道のむくみ・尿毒症による自立神経障害・心不全に伴う呼吸不全などの影響で睡眠時無呼吸症候群(SAS)になりやすいです。また、透析患者さんは慢性疾患のため、不安や抑うつ状態になりやすいく、これも睡眠障害の原因になります。
高齢になると、ノンレム深睡眠が減少し、途中で起きることが多くなります。また睡眠時間も短くなり睡眠の質も低下します。
睡眠障害の評価
加齢に伴い睡眠時間は短縮し睡眠の質も変化するため、客観的な指標で睡眠状態を評価することは難しくなります。睡眠の評価には主観的な睡眠状態の評価”ピッツバーグの睡眠質問用紙(PSQI)”を用います。
透析患者の71%がPSQI:5点以上でとなり睡眠障害あり。
一般人口も58%でPSQI:5点以上となるが透析患者は10点以上になる症例も多く、重度の睡眠障害の可能性がある。
透析患者は入眠潜時(眠りにつくまでの時間)が一般人口よりもよりも遅いためPSQIが低いと思われる。
主観的な睡眠観の悪化は、動脈硬化の進展や心血管疾患発症のリスク因子となる。
透析患者の睡眠障害の原因
身体的要因
- 体の痒み
- CKD-MBDにともなう骨痛や関節痛
- レストレッグス症候群
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
体の痒みはCa・Pが高いことが原因、RLSはドパミンの異常や鉄欠乏によってもドパミンの分泌量は減少します。
生理的要因
- 透析日と非透析日の睡眠覚醒リズムの変化
透析日では、透析中に寝てしまったり、透析後の疲れで帰宅後に寝てしまう患者さんは多くいます。その為、適切な時間に寝れなく不規則な睡眠になりやすいです。
心理的要因
- 透析治療や生活に対する不安
- 水分摂取や食事制限に関する心労
- 家庭内での存在感の喪失
- 経済的な不安
- 予後や将来に対する不安
- 合併症の不安
透析患者さんは多くの悩みを抱えながら治療に向き合っていることを透析室スタッフは理解しなければなりません。
精神医学的要因
- うつ病やうつ状態(透析患者の20~25%)
- 神経症
- 統合失調症
- せん妄
- 認知症
- 不安神経症
- アルコール依存症
このように透析患者さんは様々な悩みや問題を抱えています。そんな透析患者さんの接し方などは、こちらの記事を参考にしてください。
症状別、透析患者の睡眠治療
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠1時間当たり10秒以上の呼吸停止した回数を無呼吸低呼吸指数(AHI)と定義し、AHIが5以上あれば睡眠時無呼吸症候群と診断されます。SASが悪化すると頻回の中途覚醒が起こりノンレム睡眠が消失し熟睡感がなくなります。レム睡眠も短く、その為日中に眠気がでことが多くなります。
体液貯留による上気道のむくみ・尿毒症による自立神経障害・心不全に伴う呼吸不全などの影響でSASを合併することが多く、透析患者さんの23~70%にみられる合併症です。また重症度も高いと言われております。
睡眠時無呼吸症候群は”閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)”と”中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)”に分類され、透析患者さんでは圧倒的にOSAの方が多いです。
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)
- 肥満などによる睡眠中の上気道の反復的な閉塞に起因する
- 中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)
- 代謝性アシドーシスによる呼吸中枢機能の低下に起因
β2MGの脳内沈着が呼吸中枢を器質的に障害する
- 代謝性アシドーシスによる呼吸中枢機能の低下に起因
透析患者さんは体液貯留が起きる為、上気道のむくみが起こりやすくOSAを発症しやすいと言えます。
SASの治療
SASの治療はCPAP治療が基本となります。
透析患者んにおいては透析液を酢酸から重炭酸に変えると無呼吸が減ったり、通常透析(週3回×4時間)を夜間長時間透析に変更したり、集中的に毎日透析を行うとOSASが改善するとの報告もあります。
CSAの治療はCPAPでは改善せず、BIPAPやASVなどの2相性陽圧換気法を必要とする症例もあります。
透析患者さんのSASには尿毒症性のものが考えられるため、透析量を十分確保することで改善する症例もあります。
レストレスレッグ症候群(RLS)
脚を動かしたいという強い欲求のもと、夜間安静時に増悪し、動くと改善するチクチクとした不快な下肢の異常感覚が生じる疾患です。
- 有病率:透析患者の有病率は22.9~26.3%(一般人口は約10%)
- 症状:下肢のチクチク感
- 睡眠との関係:84.7%に入眠障害、86%に熟睡障害、34%に昼間の眠気
- 臨床的特徴:PTH高値、鉄欠乏、フェリチンと逆相関する
- 治療:十分な透析量の確保、抗うつ薬、抗てんかん薬、ドパミン作動薬、足浴
- しかし、今だに決め手となる治療法は確立されていない
透析患者さんにおけるRLSでは、透析開始前および透析開始早期に発症する例が多く、尿毒素の蓄積が原因と言われています。また鉄、亜鉛、カルシウム、リンなども原因と言われているが、結論は出ていません。
RLSの治療
ハイパフォーマンスメンブレン(HPM)や血液濾過透析(HDF)、長時間透析へ変更し透析量を確保する。また鉄が低いとドパミンの作用が低下するため鉄の補充をします。
不眠症
RLSやSASをみとめない不眠症の場合は睡眠薬による治療も考慮します。
ベンゾジアゼピン系やゾルビデム・ゾピクロンは認知機能や依存性の問題から使用は極力避ける。
エスゾピクロンやメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体作動薬を患者の状態に合わせて処方することが推奨される
まとめ
睡眠の評価は容易ではないが、睡眠障害を正しく診断し、状態に応じて治療介入を図ることは睡眠障害合併症頻度の高い透析診療において重要なことと考えます。
常日頃から、透析患者さんの訴えに耳を傾け、透析患者さんの睡眠障害を緩和させてあげることが透析患者さんのQOL向上につながると思います。
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうござます。
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