透析後はひどい疲れを感じる。
帰ってからは疲れて寝ている。
透析後に疲労感を訴える患者さんは多くいると思います。しかし、医療従事者からは、データは問題ないとか言われ、なかなか気づいていただけなことも多いのではないでしょうか。
透析患者さんの多くは透析後に疲労感を感じている
いくつもの文献によると透析患者さんの40~89%に透析後の疲れを感じていると言われております。
また、透析患者さんが求める透析治療の意識調査の結果では、透析患者さんは身体的苦痛(不眠、疲労感、筋肉の攣り)、心理的苦痛(不安、抑うつ、フラストレーション)を取り除く治療の開発を期待しています。
このように透析患者さんが自身は、日々の体調やライススタイルの向上を求めることに対して、医療従事者は病気の治療や予防を求めることの違いにより、患者さんと医療従事者の意識のズレが生じてしまいます。
透析患者さんの疲労の特徴
透析患者さんの疲労には、透析治療による疲労の”透析関連疲労”と年齢や身体的におこる”慢性疲労”に分かれます。
透析関連疲労の特徴としては、透析後は疲労感が強く自宅に帰ってから寝ていることが多くても、翌日にはスッキリして楽になります。
透析後の疲労感の回復時間についてのDOPPS研究では、41%の方が2~6時間かかると言われております。
2時間未満:32%、2~6時間:41%、7~11時間:17%、12時間以上:10%となり、70%以上の患者さんが疲労がぬけるまで2時間以上かかると言われおります。
疲労による影響
- 疲労によって身体活動の低下が起こる
- 筋力の低下
- 疲労によって食事摂取量の低下する
- 栄養不良
- 疲労によって心理的不健康になる
- 抑うつ状態
これらの状態により日常活動に支障が起こり、家事や趣味などの行えず”生活の質の低下”や就業などが阻害され”社会活動への影響”が出ます。
透析患者さんの疲労と生命予後
数々の論文で、透析患者さんの疲労感は、独立して死亡リスクとなりえます。
788人の透析患者にアンケートを実施し疲労度と心血管イベントの関係を調査した研究では、疲労がある患者さんは心血管イベントのリスクが有意に高いとされています(ハザード比:2.17)
”Fatigue is a predictor for cardiovascular outcomes in patients undergoing hemodialysis”
124人の透析患者さんにSF-36などを用いて疲労度を測定し疲労度と生命予後を検討した結果では、疲労度が高いほど、死亡リスクが高くなります(HR、95%CI:5.29、2.2-12.73)。
”Fatigue Is Associated with Increased Risk of Mortality in Patients on Chronic Hemodialysis”
疲労感は、透析患者さんの生命予後に関わる因子に付随して生命予後の危険因子となるわけではなく、”疲労感”そのものが透析患者さんの生命予後の危険因子となります。
透析患者さんの疲労の評価
疲労の評価方法
- POMS:気分、感情、情緒などの主観的側面からの評価する。
- 大阪市大質問票
- CFQ:いわゆるうっかりミスなど注意不足を原因とする認知的失敗を測定する。
- FACIT-F
- VAS:痛みの強度を測定する。視覚的評価スケールとも呼ばれる。
さまざまな評価基準を用いられていますが、逆に疲労の標準化ができていないと言えます。評価の統一性がないことが、疲労の評価を難しくしています。
SONG-HD Fatigue:2020年に発表された疲労に関する新しい尺度で、疲労度、活力、活動量を評価するします。
透析患者さんの疲労を軽減させるには
疲労の原因
”Fatigue in patients receiving maintenance dialysis: a review of definitions, measures, and contributing factors”
維持透析を受けている患者の倦怠感:定義、測定、および要因のレビュー
この文献では、透析患者さんの疲労の原因を4つの要因に分けて説明しています。
患者・社会要因
- 年齢
- 性別
- 人種
- 就業状況
- 婚姻状況
- 学歴・教育
- 社会的支援
透析要因
- 透析後疲労
- 適正透析
- 透析方法
- 頻回透析
- 長時間透析
心理・行動要因
- 不安
- ストレス
- 抑うつ
- 睡眠障害
生理的要因
- 貧血
- 低栄養
- 尿毒症
- 薬物
- 炎症
- 合併症
これらの要因が透析患者さんの疲労感にかかわってきます。
透析後疲労感の要因
透析治療は、その特性上、疲労が出やすい治療だと言えます。透析治療による疲労の原因には以下のものがあげられます。
- 除水・体液量の変動
- 血圧変動
- 浸透圧変動
- 電解質変動
- 不均衡症候群
- 透析の生体不適合によるサイトカインの増加
- 心筋虚血
- 交感神経賦活化
- 心理的ストレス
心筋虚血による透析後の疲労感
透析後の疲労感を訴える患者さんの中には心筋虚血を起こしている可能性があります。透析中の血圧が安定していても透析後の心筋虚血を起こし、それが疲労因とっていることがあります。
一部の患者が透析中に発生する心臓虚血の症状として重度の透析後の倦怠感を経験する可能性があることを示唆しています。
Dubin RF, Teerlink JR, Schiller NB, Alokozai D, Peralta CA, Johansen KL. Association of segmental wall motion abnormalities occurring during hemodialysis with post-dialysis fatigue. Nephrol Dial Transplant. 2013 Oct;28(10):2580-5. doi: 10.1093/ndt/gft097. Epub 2013 Jun 5. PMID: 23743019; PMCID: PMC3888101.
炎症反応による透析後の疲労感
透析治療によるサイトカイン(TNF-α)の上昇が視床下部・下垂体・副腎系の調節異常をきたし、疲労感を惹起します。
またサイトカインは筋力低下や活力の消耗に関係しており、安静時のエネルギー消費量を増加させて、透析患者さんの疲労感に大きく関与します。
サイトカインは、中枢神経系、視床下部下垂体および副腎軸を直接活性化するか、慢性炎症による多系統の調節解除を間接的に誘発することにより、倦怠感に寄与する可能性があります。
Jhamb M, Weisbord SD, Steel JL, Unruh M. Fatigue in patients receiving maintenance dialysis: a review of definitions, measures, and contributing factors. Am J Kidney Dis. 2008 Aug;52(2):353-65. doi: 10.1053/j.ajkd.2008.05.005. Epub 2008 Jun 24. PMID: 18572290; PMCID: PMC2582327.
サイトカインは透析後の疲労感だけでなく、抑うつ状態にも関係している可能性があります。
抑うつによる透析後の疲労感
ベック抑うつ質問票(BDI-Ⅱ)とPOMSやVASとも強い正の相関します。なので、疲労感を訴える患者さんのなかには抑うつ傾向ある患者さんも一定数いるものと考えられます。
疲労を軽減させる方法
透析患者さんの疲労感については原因は不明なことが多くため、有効な手段は確立されていません。ただ、現在行われている疲労感に対する対策をご紹介します。
- 行動療法
- 運動療法、体力保持
- 薬物療法
- 成長ホルモン、抗うつ薬、抗不安薬
- サプリメント
- L-カルニチン、ビタミンB12、ビタミンD、必須脂肪酸
- 透析方法
- 在宅透析、頻回透析、長時間透析、除水速度の管理
- 併存疾患の治療
- 精神疾患、睡眠障害、副甲状腺機能亢進症
- その他
- 腎移植、指圧、催眠術
まとめ
透析患者さんの疲労感は高頻度で認められ、透析患者さんのQOLを著しく低下させています。
疲労感は透析患者さんの生命予後に大きく関係しており、独立した危険因子です。
疲労感の病態には、透析後疲労と慢性持続疲労に分類でき、まずは原因を検討して、原因に対する治療を行う必要があります。
透析患者さんの疲労感の評価には様々なものが使用されており標準化されていない。また疲労への対策も様々なアプローチがされているが、確立された方法がないのが現状です。
よって、患者さんをよく観察し、疲労の病態を理解・原因の追究を行い、患者さん個々に合われた対策を行うことが必要になります。
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
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