どう透析器を使いわけたらいいのか?
この患者さんにはこの透析器でいいのか?
透析室で働いていると沢山の透析器(ダイアライザーやヘモダイアフィルター)があると思います。一見するとどれも同じような作りをしていて、違いがわからないと思います。血液透析(HD)に使うものをダイアライザーと呼び、血液透析濾過(HDF)に使うものをヘモダイアフィルターと呼びますが、2つをまとめて透析器と表現します。
実際は、患者さんのそれぞれの治療条件や患者さんの状態に合わせて透析器を選んでいます。
私自身、毎日「本当にこの膜でいいのか」悩みながら毎日の治療を行っております。この記事が同じ思いをしている透析室スタッフの手助けになればと考えております。私の詳しいプロフィールはこちら。
この記事では、透析器に使われている透析膜の材質別に特徴やどのような患者さんに使用したら良いかをご説明します。
透析膜を一から学びたい方はこちらの記事をどうぞ。
透析膜を種類別に説明
ポリスルホン(PS)
ポリスルホン膜は旭化成メディカル・東レメディカル・フレゼニウスから発売されており、各社それぞれ特徴をもった透析膜を開発しています。ここでは基本的なポリスルホンの性能をご説明します。
特徴
- PVP含有
ポリスルホンは水を通さない(疎水性)のため、親水化剤のポリビニルピロリドン(PVP)が必要。 - 非対称構造膜
→中空糸の内側(血液が触れる側)に緻密層があり、外側(透析液が触れる側)が支持層の非対称構造です。緻密層は溶質の除去特性を決め、支持層は中空糸の強度を保つ役割があります。 - シャープな分画特性
→除去したいものと除去したくないものをしっかり分けて治療できる
β2ミクログロブリンが透析アミロイド症の原因物質とわかった1985年くらいからPS膜は透析器の主流となっています。
現在、市販されている透析器
- APSシリーズ(旭化成メディカル)
- VPSシリーズ(旭化成メディカル)
- NVシリーズ(東レメディカル)
- ピナファインシリーズ(日機装)
PS膜の詳しく説明した記事はこちら
ポリメチルメタクリレート(PMMA)
PMMA膜は抗炎症作用や抗酸化作用があり、特別な機能のある透析膜(S型)に分類されている。
特徴
- PVPを含まない
- 均一構造膜
中空糸膜の内側から外側までほぼ均一な構造をしている均質構造です。 - ブロードな除去特性
小分子から大分子までまんべんなく除去できるが、大分子の除去はそこまで多くない。 - サイトカインを吸着除去
サイトカインを吸着除去できる透析膜はPAN膜とPMMA膜です。
現在、市販されている透析器
- NFシリーズ(東レメディカル)
- BGシリーズ(東レメディカル)
- BKシリーズ(東レメディカル)
ポリエーテルスルホン(PES)
PES膜は透水性の高さと拡散性能の高さから透析療法で広く使用されています。とくに多くの濾過を行う血液透析濾過(HDF)向きの透析膜と言えます。
特徴
- 親水性が高い(親水部分がPES:26%、PS:15%)
→同じ疎水性のPS膜と比べても透水性が高いため水が通りやすい。多くの濾過を行うHDF向きの透析膜 - 強度が高いので膜を薄くできる
→拡散性能UP、透水性UP - 非対称構造
- PVP含有
- ビスフェノールA(BPA)を含まない
→近年、BPAによるアレルギー反応が注目されてる。
ヘモフィルタにおいて市販品のなかで性能(除去性能)と膜面積の選択肢が最も多く販売シェアは№1.
現在、市販されている透析器
- PESシリーズ(ニプロ)
- MFXシリーズ(ニプロ)
ポリエーテルスルホンの詳しい説明はこちら
エチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)
生体適合性が高く循環動態に影響が少ない透析膜ですが、しかし他の膜よりも除去性能は劣ります。特別な機能を持つ膜(S型)に分類。
特徴
- 親水性のためPVP不使用
- 均質構造膜
- 血管内膜に類似した親水性のため生体適合性に優れる
→血小板、凝固系に影響が少ない、サイトカインの産生が少ない - 蛋白吸着が少ない
- 抗炎症性、抗酸化作用
→循環動態が安定する
治療中、血圧が維持できないなどの状態の不安定な患者さんなどで使用
現在、市販されている透析器
- KFシリーズ(旭化成メディカル)
ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)
ポリアレート樹脂とポリエーテルスルホン樹脂をブレンドしたもの。
特徴
- PVP含有
- 透水性の違いで膜性能に違いを持たせている
- 非対称構造
- 中分子に対しては吸着特性がある
- 開孔剤がいらない
- ETRFとしても使用されていた。
現在、市販されている透析器
- FLX、FDX、FDY、FDW、FDZ(日機装)
PEPAについて詳しい説明はこちら
ポリアクリルニトリル(PAN)
現在は市販されていて慢性期の血液浄化に使用できるPAN膜は、60年前から使われている積層型のH12シリーズだけです。
特徴
- 水分の含有量が多い透析膜
- 強い陰性荷電
→吸着特性、サイトカイン除去→敗血症などの急性期分野にも活用 - PVP不使用
- 補体の活性化が少ない
→生体適合性が良い - ACE阻害剤禁忌
→ブラジキニンショックを起こす危険がある為
積層型のダイアライザーを見たことがない透析室スタッフも多いと思いますが、60年間使われ続けているには理由があります。
現在、市販されている透析器
- H12シリーズ(バクスター)
セルロースアセテート(CTA、ATA)
セルロース系の膜で、古くから使われていた実績があります。もともと均質構造膜でしたが、近年、非対称構造のセルロース膜(ATA)が開発されました。
特徴
- CTAは均質構造膜、ATAは非対称構造膜
- 機械的強度が高い→膜を薄くできる
→拡散性能が高い - 親水性が高いため親水化剤のPVPが不要
- 乾燥すると透水性が下がる為グリセリンが塗ってある
→十分なプライミングが必要 - 荷電が小さい
→膜に蛋白質の吸着が少ないため、目詰まりが少ない、抗血栓性に優れる
現在、市販されている透析器
- FBシリーズ(ニプロ)
FAシリーズ(ニプロ)
FIXシリーズ(ニプロ)
セルロース膜の詳しい説明はこちら
どうゆう患者さんに使ったらいいのか
透析器を決めるときのポイント
患者さんの状態を考慮して除去ターゲットを決める
- 除去目標(透析効率)
- 栄養状態
以上2点を最初に考慮して透析膜を選びます。その次に患者さんの循環動態(血圧)や炎症反応をみて、さらに透析膜を考えてみてください。
透析や栄養状態の指標に関する記事はこちら
若い人、食事をしっかり食べれている人
大分子の尿毒素までしっかり除去できる透析膜を使う
- 除去するターゲット:小分子から大分子まで積極的に除去を行う
大分子まで除去を目的とすると同時にアルブミンも抜ける
→α1領域までしっかり除去してあげることで透析合併症や痒み・レストレッグスを予防できる - 注意点:大分子を除去する変わりにアルブミンも除去されてしまい、食事での蛋白補給が重要になる
おススメの透析器:PS、PES、PEPA
食事量が少ない方、高齢者
極力アルブミンは抜かない、シャープな分画特性の膜を使う
- 除去するターゲット:小分子はしっかり除去をして、アルブミンは極力抜かない
食事量や高齢者は透析治療でアルブミンを抜きすぎてしまうと体内での合成が間に合わなずに低アルブミン血症になるリスクがあります。
注意点:低アルブミン血症に注意、そのうえでしっかり透析を行う。 - アルブミンが下がりすぎてしまったら、PAN膜や、EVAL膜に一時的に変更してあげることも考慮する。
おススメの透析器:PES
大分子のレプチン(食欲抑制因子)を除去すると食欲が増すと言われていますので、ある程度大分子を除去するという選択をすることがあります。
食事量が少ない患者さんや高齢者ではサルコペニア・フレイルに注意が必要です。
サルコペニア・フレイルに関する記事はこちら
炎症反応が高い人
サイトカイン吸着特性のある膜を使う。
- 除去するターゲット:サイトカイン
注意点:炎症反応を起こしている原因があると思います。まずは原因の病気の治療も必要です。
おススメの透析器:PMMA、PAN
サイトカインは濾過で除去することも可能ですが、濾過を強くするとアルブミンの抜けてしまいます。炎症反応の高い患者さんは低栄養状態の方が多いため吸着除去の方法がいいと思います。
透析患者さんは慢性炎症状態と言えます。炎症が強いと低栄養や免疫機能の低下にも注意が必要です。
低栄養に関する記事はこちら
免疫機能に関する記事はこちら
アレルギー反応が強い人
生体適合が高い膜、PVPが含まれない膜を使う。
- 注意点:生体適合性の良い膜やPVPの含まれていない膜を選ぶ
透析膜にアレルギーがある患者さんは一定数いると思います。透析開始直後より血圧低下や気分不快が起こる患者さんは透析膜のアレルギーを疑いましょう。透析膜自体にアレルギーを起こしている場合やPVPの場合もあります。
おススメの透析器:CTA、ATA、PMMA、PAN、EVAL
透析膜だけでなくメチル酸ナファモスタットなどの薬剤の場合もありますので患者さんの状態を注意深く観察してください。
透析中に血圧低下が著しい人
マイルドな除去特性、生体適合が高い膜を使う。
- 注意点:過度なアルブミンを抜かないような透析膜を選ぶ。生体適合性の高い膜を選ぶ。
アルブミンが抜けることで膠質浸透圧が低下し血圧が低下します。また生体適合性が悪いとサイトカインが産生され血圧が下がります。
おススメの透析器:PAN、EVAL
特に透析開始直後から30分にかけて血圧低下する患者さんは透析膜が合わないかもしれません。
最後に
今回の記事では、どのような患者さんに、どのような透析膜を使用したら良いかをご説明しました。しかし、同じ透析膜でも除去特性の違うものもありますし、HDとHDFの違いもあります。病院やクリニックで取り扱っているダイアライザーやへもフィルターも違います。理想と現実は違うかもしれませんが、それでも患者さん一人一人にもっと適した透析膜を選んであげるのが臨床工学技士の使命だと考えます。また患者さんの異常にいち早く気付いていただいた看護師さんは技士や医師に報告して患者さんよりよい治療ができるように寄り添ってあげてください。
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
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[…] こちらの記事では透析膜を選ぶポイントをご紹介しています。 […]
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