生体適合性がいい透析膜ってどれ?
生体適合性が悪いとどうなるの?
透析膜に求められる性能の中に”生体適合性が良いこと”があげられますが、では、生体適合性が良いとはどういうことなのか?生体適合性が悪いとどのようになるのか?また、生体適合性をどのように評価するのか?このような疑問にお答えします。
この記事を読んでいただいて、透析患者さんの症状や訴えを注意深く聞いてみてください。生体適合性が悪いために起きている症状があるかもしれません。
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透析治療の一番の疑問!!症例別に透析膜の使い分けを説明します。
生体適合性の良い膜ってどれ?
結論から言うと、
生体適合性が良い膜は、患者さんそれぞれで違う
っと言うことになります。
これを言ってしまうと元も子もないと思いますが、異物(透析膜)に対する反応は人それぞれで反応の強い人もいれば、全然違う反応を起こす患者さんもいます。
よって、その患者さんの反応や症状を注意深く観察して、その患者さんにもっとも適した透析膜を選んであげることが最も重要なことだと思います。
生体適合性とは
生体適合性とは「生体用材料と生体間の相互作用、あるいは、材料に隣接する組織の局所的反応及び全身反応を含めた性質」です。
簡単にいうと「医療材料との接触により起こる生体の反応」を生体適合性といいます。そのような反応を引き起こさない材料を”生体適合性が良い“といいます。透析治療における医療材料とは、透析膜、血液回路、透析液などが含まれます。
生体適合性が悪いとどのような症状がおこるのか
現在、透析医療で使用されている透析膜は年々改良が重ねられ一昔前に比べたら生体適合性はよくなっております。それでも医療材料(異物)との接触による生体の反応は無くならないのが現状です。
透析治療中に生体に起こる反応
では、医療材料と血液が接触することで、体ではどのような反応が起こるのでしょうか?
体の中で以下の4つのことが起こっています。
- 補体系反応
- 陰性荷電膜症候群(カリクレイン・キニン系
- 血小板反応
- 単核球(インターロイキン)
補体系の反応
透析膜に触れることで補体が活性化されて、C3aとC5aが産生される。この活性補体(C3aとC5a)から様々な生体不適合反応が起こります。
- 好中球を刺激して、肺毛細血管での白血球の凝集がおこり全身性の白血球減少が起こる
- 血小板を刺激して凝集させる
- 好塩基球に作用してヒスタミンを産生する
- 単球に作用してサイトカイン(IL-1、TNF-α)を産生する
さらに補体活性により免疫力低下・透析アミロイドーシス・動脈硬化などの長期的合併症の原因にもなります。
陰性荷電膜症候群(カリクレイン・キニン系)
陰性荷電膜とACE阻害薬の相互作用で起こる反応で、陰性荷電膜であるAN69膜(PAN膜)やLDL吸着で使用されるデキストラン硫酸セルロースビーズでは、陽性荷電因子であるプレカリクレイン・第Ⅺ因子・第Ⅻ因子・高分子キニノーゲンなどが反応しブラジキニンが産生される。
通常はブラジキニンがキニナーゼⅡにより不活性化されるのですが、ACE阻害薬を内服しているとキニナーゼⅡを抑制していまうため、血中のブラジキニン濃度が上昇します。それにより、血圧低下・胸部症状・気道粘膜腫脹による呼吸困難・悪心・嘔吐・下痢などアナフィラキシー症状が起きます。
AN69膜ではアナフィラキシー症状には注意が必要ですが、このブラジキニンの効果により血管の拡張作用で末梢循環の改善効果をもたらします。
血小板反応
透析膜との接触で活性化された血小板は、膜や回路に粘着し、凝集し、血栓を作ります。
血小板の反応は陽性荷電膜で強く、また補体活性化によっても起こります。
単核球(インターロイキン)
単核球からIL-1・IL-6・TNF-αなどのサイトカインが産生され、血圧低下や熱などの炎症反応が起こります。
また、エンドトキシンや酢酸によっても単球が刺激されてサイトカインが分泌されます。
生体適合性が悪いと起こる症状
短期的な症状
- 血圧低下
- 嘔気・嘔吐
- 気分不快
- 血液凝固・残血
サイトカインやブラジキニンの作用で血圧低下が起きたり、嘔気・嘔吐が起こることがあります。また、血小板の凝集や凝固の促進が起こり透析膜に残血として残ったり、ひどい場合は回路が詰まったりします。
長期的な症状
- 免疫力低下
- 透析アミロイドーシス
- 動脈硬化
- MIA症候群
透析膜に接触することで白血球が接着能が活性化され肺胞内で凝集します。それにより白血球の数が一時的に減少し、その後白血球が産生されて動員します。これにより幼弱性の白血球が増えることで免疫力は低下していきます。
生体不適合が起こるとアミロイドーシスの原因物質であるβ2MGの産生が亢進され、さらにサイトカインが産生されることで透析アミロイドーシスが亢進します。
MIA症候群は微細炎症に伴う栄養障害であり、生体適合性不全においてサイトカインが産生されると炎症反応がおこりMIA症候群が亢進される恐れがある。
活性酵素(ROS)の産生が多いと動脈硬化やβ2MGによるアミロイドーシスの原因になります。
サイトカインは腎臓で除去・分解されるため、腎不全ではサイトカインが体内に長く停滞し、慢性炎症の要因となります。
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生体適合性の評価方法
透析膜と接触することで直接的に起こる反応の指標
- 白血球
透析開始後15分前後をピークに白血球数が減少する。白血球数の減少が少ないほうが昔から生体適合性が良いと考えられています。 - 血小板数
血小板が透析膜と触れることで活性化され、粘着・凝固をすることで血小板の数が減少する。凝固を起こすと回路内に血栓として生じたり、透析膜に残血として残ったりします。 - 補体の活性化
透析開始15分をピークに補体の活性化が起こる。特にセルロース系のOH基にC3が反応して、補体の第2経路が活性化される。 - 凝固反応
透析膜と触れることで、内因性凝固因子である第Ⅻ因子が活性化されて凝固系が亢進し血栓を生じる。
昔から白血球の減少が少ない透析膜が生体適合性が良いものとして考えられてきました。そのため合成高分子膜がセルロース膜に比べて生体適合性が良いと言われるのは、白血球の減少が合成高分子膜の方が少ないためです。
陰性荷電の強い膜のほうが第Ⅻ因子を強く刺激すると言われています。
生体が受ける刺激がいくつもの反応を経て起こる反応の指標
- ネオプテリン
→γ‐IFN(サイトカイン)の刺激により単球から分泌される物質で、液性免疫の指標として用いられる。 - トロンボキサン
→血小板が活性化されるときに放出され、血小板の凝集や血管壁の収縮を引き起こす物質である。 - 顆粒球エラスターゼ
→顆粒球が活性化されたときに放出される - CD15s
→白血球の接着因子 - 活性酵素(ROS)産生
→活性化された血小板が好中球に触れると、酸化ストレスの原因となる活性酵素(ROS)の産生が促進される。 - サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-α)
→透析患者さんのサイトカインは高値を示すことが多いが、透析膜の種類によってもサイトカインの濃度が変化することで生体適合性の指標に用いられる。
まとめ
生体適合性に関する透析膜の要因としては、①膜表面電位、②親水・疎水構造比率、③膜表面の状態(滑らかさ)、④血液接触面のポリマーの分布などがあげられます。
合成高分子膜の発売以降、透析膜の改良や細孔径や表面のコーティングなどをコントロールできるようになり、生体適合性は向上してきています。
しかし、医療材料という異物である以上、血液と透析膜や透析液との接触による生体不適合反応はゼロになっていないのが現状だと思います。
そのため、透析室スタッフは、透析患者さんの症状や訴えに耳を傾け、注意深く観察する必要があると思います。
この記事が、皆さんの透析膜に対する考え方の手助けになればと思います。
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
コメント
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