高血圧が良くないのはわかるけど、血圧を下げると透析中の血圧低下で除水が出来ない…
透析患者さんの血圧コントロールは非常に重要です。透析患者さんは高血圧になりやすく生命予後に大きく関係します。しかし、血圧を下がることで透析中の血圧も下がってしまうこともあり、血圧のコントールは非常に難しくあります。
高血圧だけでなく低血圧も予後不良
高血圧の記事でもご紹介しましたが、透析患者さんは高血圧でも低血圧でも予後不良です。透析前血圧が120~160くらいが一番生命予後が良い。
透析患者さんの低血圧の実態
上のグラフのよう透析患者さんの血圧は変動しやすく、透析治療によって血圧が低下し、次の透析までに血圧は上昇します。しかし、透析患者さんの血圧の変動を細かく診ていくと透析日の就寝前に一番血圧が低下することが多いようです。よって家庭血圧を測定してもらうのが大切になります。
血圧は心拍出量と末梢血管抵抗できまります。よって低血圧は心拍出量の低下、または末梢血管抵抗の低下、もしくはその両方が起きることで発症します。
透析患者さんに見られる低血圧
透析患者さんにみられる低血圧には“透析低血圧”、”起立性低血圧”、”常時低血圧”があります。
透析低血圧
透析中にSBPが20㎜Hg以上、または10㎜Hg以上低下し症状が伴うもの
透析中に起こる血圧低下のことで、透析治療により除水量が多かったり除水速度が速かったりして起こります。
起立性低血圧
立ち上がった時にでSBPが20㎜Hg以上、DBPが10㎜Hg以上低下し症状を伴う場合
自律神経障害、下肢の筋力低下(下肢の筋力で血液を送り出すため)によって起こるとされています。
常時低血圧
SBPが常に100㎜Hg以下の場合
低血圧に伴う症状としては、あくび、吐き気、嘔吐、頭痛、動機、冷や汗などが見られます。
低血圧の原因
透析患者さんの血圧低下の原因には”透析治療での除水”、”心機能低下”、”貧血”、”高齢”、”栄養不良”、”糖尿病”などがあげられます。
透析治療での除水による血圧低下
透析治療で除水することで循環血液量が減少することで血圧が低下する
- 除水速度が速すぎる
- DWがキツイ
- 代償機構がうまく機能していない(自律神経障害、糖尿病)
- 生体不適合(透析膜、透析液、薬剤)
血圧における代償機構とは、循環血液量が減ると心拍数を上げたり、血管を収取することで血圧を維持する働きのことで、この機能がうまく働かないと血圧が維持できなくなります。
透析膜における生体適合性についてはこちらの記事をどうぞ。
透析膜に求められる5つの性能のうちのひとつ”生体適合性”について、ご説明します。
心機能低下による血圧低下
血圧は心拍出量と末梢血管抵抗で決まるため、心拍出量の低下によって血圧低下が起こります。
貧血による血圧低下
腎機能が低下するとエリスロポエチンが産生が低下するため透析患者さんは貧血になりやすいです。貧血も血圧低下の原因になります。
- 貧血になると全身に酸素の運搬がしにくくなります。
- そうすると血管を拡張して酸素の透過性を良くして酸素を効率より取り込めるようにする
- 血管が拡張するため血圧が低下する
貧血を改善することでの血圧上昇やエリスロポエチン製剤そのものにも血圧をあげる効果があります。
低血圧の対応
透析に血圧が低下したときの対応
透析中に血圧低下が起こった場合の最初の対応
- 除水を止める
- 下肢を挙上する
この時点で症状を伴う血圧低下の場合は補液も行います。
それでも血圧が上がらなければ
- 10%NaCl
- 20%ブドウ糖
- 50%ブドウ糖
- メイロン
- 代用血漿
- グリセリン
それでも血圧が上がらなければ透析終了
血液透析中の血液量に対するブドウ糖注入の特定の効果
透析中に①無注入、②0.9%食塩水、③3%食塩水、④5%ブドウ糖、⑤20%ブドウ糖、⑥マンニトールを投与して血圧ボリュームを検討したものでは、20%ブドウ糖が最も効果がありました。
透析中の血圧低下に対して昔から10%NaClを投与している透析室は多いのではないでしょうか?しかし、透析中に投与されたNaClは透析では除去されず、透析後の口渇感の原因になります。
透析の血圧低下が起こったら、次の透析まで行うこと
- 患者さんの見直し
- 透析間の体重増加を少なくなるように指導
- 貧血・低Alb血症の進行がないか確認
- 降圧薬の見直し
- 透析条件の見直し
- DWの見直し
- 除水速度の見直し
- 最大除水速度を15ml/h/㎏までにする
- 透析膜・透析液との生体不適合
- オンラインHDF・IHDFの検討
- HDFではHDに比べて血圧低下が起きにくい
- 心機能低下の評価
- Afに注意
- ECG・心エコー
- HANP
- 心筋シンチ
透析中の血圧が低下した原因を探り、次の透析までに対策をたてます。
それでも血圧が低下する場合は、薬物療法を検討
第一選択は塩分制限をし体重増加を抑えてもらうこと。それでも血圧が低下する場合は薬による昇圧を検討します。
- アメジニウム(リズミック)
- 効果:交感神経の末梢神経内に取り込まれ、内因性ノルアドレナリンの不活化を抑制することで交感神経を刺激し血圧を上げる。
- 用法:1回10mg透析開始時に内服(1時間後に10mgの追加もあり)
- 塩酸ミドドリン(メトリジン)
- 効果:交感神経アミンDMAEをグリシンで修飾したプロドラッグで、末梢血管のα1受容体を選択的に刺激し、血管を収縮させろ。作用は緩徐で作用時間は長い。
- 用法:2~4mgを透析前に内服
- ドロキシドパ(ドプス)
- 効果:ノルアドレナリンの前駆物質で、ノルアドレナリン様作用をする。作用発現が遅い。透析後の起立低血圧に用いることが多い。
- 用法:100~200mg透析30分前から1時間前に(起立低血圧には透析開始時に内服)
- エホチール
- 効果:血管と心臓の両方に作用しますが、とくに心臓への作用が強く心筋収縮力を増加させて血圧を上げます。
- 用法:10mg/1mLを生食で希釈して10cc(1mg/ml)や20cc(0.5mg/ml)で持続で投与します。
薬で血圧をあげると薬の効果が切れたときに、心臓への負担があったり血圧が余計に下がることがあるので注意が必要です。
まとめ
透析患者さんの低血圧管理のポイント
- 透析低血圧、起立性低血圧、常時低血圧は透析患者の生命予後に大きく関わる。
- 透析中の血圧だけでなく家庭血圧も大事。
- 透析中に血圧が下がるのは、DWがあっていない場合、時間除水が多い場合に起こる。
- 昇圧薬は血圧低下の原因検索が終わってから検討を行う。
- 昇圧薬は心血管に負担になるため経口薬から始める、効果がなかったら静注を検討。
主に血透析患者の低血圧について、年々高齢化していく透析患者さんは非常に複雑な病態と言えます。個人個人で対策し、透析低血圧の苦しみから少しでも多くの患者さんを救ってあげください。
今回の記事は以上となります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
コメント